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知らない思い出

涙の数だけ強くなれるよ
アスファルトに咲く花のように
見るものすべてに おびえないで
明日は来るよ 君のために

最近の若い子たちは知らないが、20代後半とか
30代以上の人なら、一回くらいはこの曲を聴いたことがあるのではないかと思う。勿論、涙の数だけ強くなったりはしないし、アスファルトに咲く花が本当に強いのかは知らない。

さて話は変わるが、小学4年の秋に隣町の小学校に転校したことは前にも書いたと思う。
比較的、新しい学校で私たちの代が7期生だった。
校舎の作りも今風で、教室が半個室みたいになっているオープンスペースを取り入れていた。

私が転入したクラスの担任は、とてもドッシリした体格の女性で、近距離パワー型の教師だった。独特なクラス運営をしていたが、それなりに生徒には慕われているように見えた。

そのクラスには『帰りの会』というものがあり、その日あった様々なことを報告したり、発生した問題を反省したり、次の日の授業の予定や、保護者への連絡事項を確認したりする会だった。
その1コーナーにクラスで決めた課題曲を
『合唱』するという謎のコーナーがあった。
趣旨は今だに謎である。

最初のうちは音楽の教科書や、『みんなの歌』的なやつから選抜された無難な曲だったが、だんだん飽きてきたのか、その当時流行っていたJPOPみたいな曲もアリというルールに変わっていった。
スピッツ『空も飛べるはず』が特に印象に残っているが、歌詞をよく読んでみると、小学生が学校で合唱するような内容ではないと今になって思う。

幼い微熱を下げられないまま
神様の影を恐れて
隠したナイフが似合わない僕を
おどけた歌でなぐさめた

この課題曲は基本的に毎日歌われ、
担任のスタープラチナ先生(仮名)の気分で、
突然、次の曲を決める会が開催される。
4年生の3学期、転校してきてようやくクラスに
馴染んできたか、そうでもないか、という頃、
スタプラ先生がある提案をした。

みんなで『学級歌』を作ろう!!!

意外とクラスのみんなは乗り気だった。
歌詞はクラスの思い出を各々から募集し、
それを組み合わせて作ることになった。
肝心な曲はどうするのか?

これはクラスの総意で『TOMORROW』
で即決された。何故、この曲なのか?

それは、2学期の運動会でみんなと踊った
思い出の曲だったからだ。色んな苦悩や
挫折を乗り越えて、やり遂げた証。

クラスのテーマソングとして、
これ以上に相応しい曲は存在しないのである。

…という話をみんなから聞いた。

そう、私が転入してくる直前の話だ。
私には何の関係もないし、何の思い出もない。
何なら、この曲を聴いたことすらなかった。

要は替え歌を作って、帰りの会にみんなで歌おうぜ的な企画。新参者の私にはそれを拒む権利はないし、周りに同調するしか道はなかった。

クラスのみんなは楽しそうに歌詞に使うエピソードを次々に口にしているが、どれも記憶にない。
だいたいの思い出になりそうなイベントは、
私が転入する前には終わっていたのである。

私にあるのは、通常の授業か、忘れ物とか、
友達と喧嘩をしてスタプラ先生から罰を受けた
あまり良くない思い出くらいである。

数週間かけてようやく、超大作が完成した。
なんと本家を上回る5番の歌詞まである。
フルコーラスで10分以上かかる。
これは歌い甲斐があるじゃあないか。

とにかく帰りの会が苦痛で仕方なかった。
たしかに名曲ではあるが、この曲を聞くたびに
地獄の学級歌を今でも思い出す。

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