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映画トラペジウムを楽しんだ人たちへ

このタイトルのnoteを開いておきながら本編まだ観てない、あるいは読んでないって人がいたとしたら、それはもう僕の落ち度じゃないのでネタバレ踏んでも諦めてください。使ってる画像も公式PVのスクリーンショットなので、ここにあるのは誰でも見える範囲のものだけです


上手下手(かみて・しもて)

演劇用語です。じょうず、へた、ではなく方向を意味します
 
舞台上での左右を強調する言い方は海外にもステージライト・ステージレフトとしてありますが、上手下手は能楽や落語や歌舞伎などで使われていた用語のため、この言い回しは日本独自のものです
 
由来には諸説ありますが、このnoteに都合がよいので今回は上座・下座に合わせます。舞台上で家を表現するセットを組んだりすると、観客から見て左側が玄関などの下座、その反対に右側が家主のいる奥間で上座になります
 
この上座・下座というのも日本独自の文化ですが、ざっくり言うと死にやすいのが下座で生き残りやすいのが上座です。部屋の入口から遠い方が襲撃犯から攻撃されにくくなるので、城主など守られるべき重要人物を生還率の高い順に配置するための知恵です
下座は入り口に近いので、雑用を申し付けられやすくもなります
 
閑話休題
舞台の向かって右側が上手(かみて)で上座のように扱い、そのシーンでの主役や偉い人が配置されます。逆に左側は下手(しもて)で配役上の立場が低かったり脇役や敵役などが相対します
 
これは文章で書くよりも、見た方が早いし理解も進みます

下手:子供ゆう / 上手:大人ゆう

本編冒頭で流れる主題歌の終盤、子供ゆう初めてアイドルとの邂逅
上手のアイドルは与える側、下手の少女は受け取る側
 
聖南テネリタスで純金インゴットこと、華鳥蘭子との出会い
「お友達になってあげる」南さんが上手

下手:東ゆう / 上手:華鳥蘭子

劇中で何度か繰り返される喫茶店BONでの作戦会議
当然のように東ゆうは上手に座ります

下手:工藤真司 / 上手:東ゆう

燦然と輝くアイドル、探し当てた目的の美少女、本作品全体の主役
向かって右が偉い、もう覚えましたね?
 
ではちょっと人数を増やします

下手:亀井美嘉 / 上手:東ゆう

大河くるみも上手にいますが、このシーンでの主題は北の星こと亀井美嘉との再会。東ゆうと亀井美嘉の位置関係こそが重要で、大河くるみは直前までの位置関係を矛盾なく引き継いでいるだけで大きな意味は持ちません
 
彼氏バレのシーンも同様です
さらにここは直前の立ち位置が、上手にマルサクトの遠藤さん(と亀井美嘉)、下手に東ゆう(と華鳥蘭子と大河くるみ)の構図を見せてから、遠藤さんが退場するカットを挟んで視点が入れ替わります
切り替わった後に華鳥蘭子らは上手の側に居ますが、それは「東ゆうの背後」の属性を引き継いでいるだけで、重要なのは遠藤さんの次に場を支配した東ゆうと亀井美嘉の位置関係ですね

下手:美嘉以外の東西南北(仮) / 上手:遠藤さん
下手:亀井美嘉 / 上手:東ゆう

前後の会話やあらすじなどが多少うろ覚えでも、見れば誰が活躍するかわかるという伝統的手法が、この作品でも全体を通して使われています
 
右側の人に注目すれば話の大勢が掴めて、それに左側の誰かが応えていくことでドラマになります。それでは画面に写る人が減ったらどうなるのか
具体的には電話のシーンです

下手:古賀さん / 上手:東ゆう

これがデビューの足掛かりになるため、本心ではいくら感謝してもし足りないくらいですが、一応ここでは古賀さんが頼み込んで東西南北(仮)がそれを受諾するという立場なので、下手は古賀さんです
 
画像を用意できませんでしたが、劇中で印象に残る古賀さんとの電話はこの他にもありますよね。城州駅のホームで「勤勉が必須条件の一番かっこいい職業」の話を聞きながら、コンピレーションアルバムCDリリースの連絡を受けたシーンです。あのシーンでも実際には目の前にいない古賀さんに向かって、謝罪と感謝を込めて東ゆうは深々とお辞儀します
どちらが上手か下手かは、もうわかりますね

右から左への移動

画像素材がないので映画本編の映像を思い出してほしいのですが、主題歌が流れた後に「テネリタスキック」をかましてから、聖南テネリタス女学院をうろうろする東ゆう。校歌斉唱を右から覗き込み、右から現れ噴水前を左へと通過し、階段の踊り場から左上へ向かいます
西テクノでも同様に「男、男、男。男子ばっかり」との台詞とともに左へと歩き続けて、シンジの先導でも左へと進みます
 
基本的に、この映画の登場人物は右から左に向かって進みます。少し角度が付いて画面の手前や奥側への移動も多いのですが、前後の立ち位置に矛盾が出たり建物の構造上の問題がない限り、横からの視点なら常に左向きです
前段を踏まえて言うと、上手から下手への移動です

主題歌「なんもない」の映像では矢鱈と右へ走るシーンが続きますが、よほどのことが起きなければ左向きです。つまり右へ向かうシーンがあれば、そこでなにか「よほどのこと」が起きるとも言えます
 
はい、劇中で明らかに右へ向かう最初のシーンが、翁琉城の帰りですね
先を歩いていた亀井美嘉が下り坂の途中で立ち止まり、通り過ぎた東ゆうへの不満を爆発させます

この他に東ゆうが明らかに右へと歩くのは、亀井美嘉へ「友達にならなきゃよかった」と吐き捨てて帰宅して母親の呼び掛けを無視して自室に向かうシーンと、エレベーター前で泣き崩れる亀井美嘉から逃げ出して雨の中を駆け抜けるシーン、そして欠席していた学校へと送り出されるシーンです
 
あとその姿は映っていませんが、遠藤さんからの業務連絡に退所を告げるシーンで砂浜に残った足跡が右へと歩いていたことを示してましたね

ちなみに電車やロケバスでの移動も、流れる背景から東ゆうが左へと移動している構図で描かれます。例外は冬フェスからの帰りに「くるみがおかしくなる前に」解放するよう華鳥蘭子に頼んでたシーンですね

華鳥蘭子という女

物語の終盤、一度はバラバラになった東西南北(仮)のメンバーが再び集まって、互いの胸の内に抱えていた気持ちを打ち明け合うシーンがあります

先に着いていた東ゆうが上手で、後から来た下手の三人がそれぞれ自分の向き合い方や東西南北(仮)としての活動などを振り返ります。会話の焦点や立ち位置について、大河くるみと亀井美嘉の二人は下手から語りかけて、それに上手の東ゆうが答える形で特筆すべきことはありません

行動力だけで言うなら、東さんも負けていなくってよ

華鳥蘭子、前述の二人とのやり取りで友情を確かめ合った後に「やりたいことが見つかったの」と語りながら東ゆうへ近づいて、通り過ぎ、端まで歩ききってから身の振り方を伝えます
東ゆうとの会話が始まった時点では下手にいたのが、いつの間にか上手に移ってメンバー全員を相手に世界へ羽ばたくことを告げる、それが華鳥蘭子
 
なお堂々と振る舞っていますが東京タワーでは馬脚を現していた高所恐怖症なので、横並びに見えても他のメンバーよりちょっとだけ後ろに下がっているように見えます。かわいいね

なお前述のシーンで大河くるみは「アイドルを続けられなかったこと」を謝りますが、東ゆうはアイドルでなくなったことを悔やみこそすれ無茶させてた自覚はあるので責められません。同様に限界まで追い詰めたという自責の念が東ゆうにもありますが、大河くるみにとっては初めてできた友達のため自発的に頑張れるところまでやり遂げようとした結果なので、振り返って「みんなアイドルになってよかった、ってことなのかな?」とすら言えるようになれました
抱えていた罪悪感は自分の中にしかなく、相手はそもそも怒っていなかったというのは、ボランティア活動での登山でもそうでしたね
 
亀井美嘉に関しては既にババハウスで「私のヒーロー東ちゃん」を聞かされているので、どちらかと言うと東ゆう抜きにした大河くるみや華鳥蘭子への関係性の確認でしたね。冬フェスの帰りに電車内で心配されてたことを観客は知っていても亀井美嘉本人は知りません。過去を引きずってて自己評価がまだまだ低い

リンク集

ここまで読んで検証したい方もいるかと思いますので、序盤の電車内が確認できる本編冒頭映像のリンクなども貼っておきます

真偽の確認方法

振り向いたり一部の例外もあるため絶対とは言い切れませんが、この映画の画面構成はほとんどのシーンで忠実に上手下手が反映されています
 
そのシーンにおける登場人物の立ち位置や、移動する方向も含めて観直すと新たな発見があるかもしれません。リピートしようね、セカンドラン上映している劇場などもまだ全国にありますよ

ちなみに僕は沖縄在住なので、もうしばらくイオンライカムで観られます

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