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イタリアサッカーは復活したのか?~Footballista最新号を読んで

どうもPERUです。先日モデルナ製ワクチン接種(2回目)を終えた所ですが、これといった副反応がなく困惑しています(苦笑)。1~2日はベッドに寝込んで生活することになると思い、水分と食料を大量に買いこんでいたのですが、ほぼ出番なしで終わりそうです。ありがたい話です。

さて、早いものでEURO2020をアッズーリことイタリア代表が制して既に1か月以上が経過。イタリアが国際的なビッグタイトルを獲るのは、2006年ドイツW杯以来(EUROの優勝は1968年以来)であり、世間ではイタリアサッカーの時代が帰ってくるのでは、囁かれています。そんなイタリアサッカー界のビッグウェーブに乗るべく、フットボリスタ様からこんな神本が出てきました。

ユベントスの”キングコング”ことキエッリーニが表紙という如何にも玄人向けの一冊。(イタリアサッカー好き以外で買う人はほとんどいなさそう。笑)。EURO2020のレビューに加え、育成年代改革プロジェクトの成果、監督大シャッフルのセリエA各20クラブレビュー等、魅力的な特集が盛沢山。

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ユベントスの"キングコング"こと闘将キエッリーニ

本誌でも再三に渡って歌われていたのが、イタリアサッカーは復活を遂げたのか?ということ。本Noteでは、本誌の内容に私の意見を交えて、この問いを考えていきたいと思います。

EURO2020優勝

今大会でのアッズーリの躍進は、2006年のそれとはフィロソフィーの面で大きく異なっています。従来型のアッズーリといえば、得点するよりも失点をしないことを重視する守備的なメンタリティーを土台とする堅守速攻型チームとして一般的に知られています。それはクラブレベルでも脈々と受け継がれ、セリエA所属クラブの大半が、「内容」よりも「結果」を重視。2010年のインテル3冠までは、こうしたメンタリティーが当たり前とされてきました。
しかし、今大会でのアッズーリは、「ボール支配によるゲーム支配」という革命的なフィロソフィーを積極的、かつ、能動的に選択。大会を通してこの指針を貫き通したことで、見事戴冠を果たしました。EURO2008スペイン制覇、及び、ペップバルサ時代以降、こうしたボール支配を中心としたチーム戦術は、世界レベルで大きなトレンドでしたが、そうした状況をみてイタリアサッカー連盟も大きな改革に乗り出したのでした。

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サッカー史上最強の呼び声も高い2012年スペイン代表
(イタリア代表もEURO2012で2度対決し1分1敗)

アリゴ・サッキによる育成年代改革プロジェクト

ゾーンプレスを生み出し、80年代のACミラン黄金期を築いた名将中の名将、アリゴ・サッキにより、2010年、イタリアサッカー連盟・育成年代改革プロジェクトが発足。このプロジェクトは、アンダー世代全年代を通して能動的でテクニカルなサッカーを指向することを目指して10年来活動を続けてきました。
2018年にロベルト・マンチーニがA代表監督に就任。これにより、同プロジェクトとナショナルチーム間に大きな連動性が生まれました。マンチーニ監督は、A代表メンバーの主力が故障等で招集できなかったり離脱した場合、積極的にU-20/-21から若手の引き上げを実施。実績充分の中堅・ベテランではなく、近い将来代表を主力として担い得るタレントを積極的に登用していきました。特筆すべきは、今回のEURO2020イタリア代表メンバーの26人中19人が同プロジェクトを通過しているということです。例えば、ドンナルンマ、バレッラ、クリスタンテ、バスト―二、ロカテッリは1番下のU-15から全ての年代別代表を通過してきた選手達。逆にキエーザはU-19で初選出と遅咲きです。しかし皆どこかの年代で一度はEUROやW杯という国際トーナメントに参加しているわけです。
このように、年代別代表×A代表が融合したことにより、数々の若手スター選手が躍動したのでした。
こうした戦術フィロソフィーの変化(受動的→能動的)、若手の積極登用は、イタリアサッカーの未来を明るく照らすものであり、今後も代表レベルでの国際タイトル獲得が狙える位置に居続ける為の基盤となりそうです。

クラブレベルでは

ではナショナルチームと打って変わってクラブレベルではイタリアサッカー界の立ち位置はどうでしょうか?セリエAは、90年代のカルチョ全盛期と比較して、ワールドクラスの選手は未だ少なく、UEFAカントリーランキングではプレミアリーグ、リーガエスパニョーラの後塵を拝す状況です。4位のブンデスリーガとは常に僅差。2位のリーガエスパニョーラと比較するとここ5シーズン、セリエAが獲得ポイントを上回った年はありません。(リーガエスパニョーラはメッシのバルサ退団、マドリー弱体化の進行等もあり、今後しばらく低迷期を迎えると思われます。数年後にはセリエA、ブンデスと同等のポイント獲得数になる可能性も高く、プレミア一強時代はすぐそこに近づいています)。

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UEFA.comより引用

経済面でも苦労しているクラブは少なくありません。
健全経営で知られていたユベントスは、ロナウド獲得によってマーケティング面、及び、CL制覇による報奨金で総収入増加を狙いましたが、結果的に超高コスト体質となり、経営は不安定化しました。フリードキングループに買収されたローマも、CL等、競技面の結果に対する全売上の依存度が非常に高い為、ハイリスクハイリターン経営を継続。競技面での結果が伴っていない現時点ではそのハイリターンを得られていない苦しい状況で構造改革が急務です。昨季王者インテルも、蘇寧グループのコロナによる財政悪化の影響を受けて、ハキミ、ルカク等、主力の退団を避けられない状況に。米投資ファンドエリオット下のミランの経営状況は着々と改善しつつありますが、かつてのワールドスター集団ミランにとは程遠い状況が続きます。
一方で戦術面では、ナショナルチーム同様、クラブレベルでも、積極的かつ能動的なスタイルを掲げるチームが増加しており、その中で、数多くの若手が成長し、EURO2020の主役に(イタリア代表以外も含めて)。アタランタやサッスオーロのようなクラブがそうしたチームの象徴として、リーグの主役となりつつあります。

新時代の魅力的なイタリアサッカーを目指して

復活ではなく進化。おそらく、イタリアサッカー界が完全に復活するには、まだまだ時間がかかることでしょう。また、復活するとしても以前のような古き良きセリエAとは異なるスタイルになることが予想されます。しかしそれは、多くのイタリアクラブが数多くの若手を国内外に輩出し、積極的かつ能動的なサッカーをプレゼンスする魅力的なリーグへと進化することを意味します。今はその過程の途中にいるのだと思いますが、おそらく道は間違っていない。このまま全世界のお手本となる素晴らしいリーグとなることを切に祈ります。


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