∮2　初めての内見

初めての内見

金沢でお店を開きたいと思った僕は、2022年の8月に、鈍行列車に揺られながら、ネットで見つけた空きテナントの内見に訪れた。

そのテナントは、車の通行量は多いけど人通りは少ない商店街の一角にあった。お昼に待ち合わせをしていたテナントの前で立っていると、70歳くらいのおばあちゃんが通りの向こうからやってきた。僕はてっきり、もっと若くていかにも不動産屋さんみたいな人が来ると思っていたので、拍子抜けしてしまった。

おばあちゃんは膝に手を当てて、息を整えている。
慌ててきたのだろうか。

「またせたねぇ」

と言って、おばあちゃんがテナントの鍵を開けた。

いよいよ、人生初の内見が始まった。