特色入試の思い出

僕は高校生の頃から(身の丈に合わず)雪江先生の代数学シリーズを読んでいる。高校の頃あまり理解できなかったため,大学入ってから仲間を募ってゼミ形式で読み進め,群論から始めてついにガロア理論の章に入った。3次方程式のガロア群の内容を読んで思い出したどうでも良い自分語りを少しだけ書いてみようと思う。

高校生の時に京大の特色入試を受けた際,提出書類に数学で自分で考えたことについて書く欄があった。それに何を書こうか迷った結果,雪江先生が代数学の講義で,標数2の体上の3次方程式のガロア群でZ/3Zに同型なものの例を構成したら成績に加点するというようなことを言っていたのを思い出した。数週間の試行錯誤の末,そのような例を構成する一般的なアルゴリズムを考えて提出した。提出した書類の写真がなぜか消えてしまっているのが悔やまれるが,今思うと当時自分の理解があまり深くなかったために選んだテーマが地味すぎるのに加え,大した結果を得られていないor嘘を書いていた可能性が高い。そのため今からでも京大に忍び込んでそれを読んで下さった教授の記憶を抹消したいと思うくらい黒歴史となっている。曖昧な記憶に基づくと,確か線型代数をもう少し理解していればもう少しまともなレポートになったのではないかと悔やんでいる(当時はガロア理論どころか線型代数もおぼつかなかった)。

自分は勉強が得意なだけで,何か自分で興味を持ってそれについてとことん考えてみるという熱意に欠けている。そのため同じく特色入試に出願した友人のように,日常的に考えていた結果を提出書類に書くだけ,という流れができなかった(その友人は1次元の衝突問題を一般化して,衝突回数の極限にπが出てくるという結果を自分で導いていた)。提出書類に書くために数学のことを考えるという元も子もないことをやってしまったのだ。そういうところが特色入試がうまくいかなかった原因の一つかなと思っている。しかし当時の自分は自分なりに,それなりに面白いテーマを考えるにはそれ相応の知識が必要であるという考えを持っていた。実際,高校生の零細な知識では太刀打ちできる数学の範囲は限られてくると思う。例えば,前述の友人も線型代数を理解していれば一瞬で終わる計算過程に何週間も苦戦していた。それでもその友人はしっかりと結果を出して,特色入試とは違う場所で賞を受けた。そんな彼を心の底からリスペクトしている。何かを考える際,持っているカード(知識)で勝負するという割り切りが僕はできなかった。もし研究者としてのキャリアを将来の選択肢に入れるならば,克服するべき課題だと当時思ったのをよく覚えている。(今も克服できていないが…)

どうでも良いのだが,好きな定理の欄にはフランク•モーリーの定理を書いた。何か特別なことを成したわけではないが,若いなりに色々なことを考えた日々は大切な思い出である。


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