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スウェーデンの解散したポップなラッパーデュオ、Snookを時系列順に聴く。

私の最推しバンドであるMovits!は2018年にデビュー10周年を迎えました。元々はエレクトロスウィングとして日本でも人気があったスウェーデンのヒップホップバンドです。リーダーであるヨハンは1983年生まれ。Oakar LinnrosとDaniel Adams-Rayと同い年です。けれど、Movits!のデビューは2008年(厳密には2007)。ちょうど、Snookが活動を停止する頃にデビューしたという寸法です。個人的にはMovits!のようなバンドはSnookがスウェディッシュヒップホップの間口を広げなかったら出てきていないのでは、という思いがあったりもするわけです。

さて、私のそういった思いはともかく、Snookがスウェーデンのヒップホップ史において重要な位置を占めているのは確かです。

2018年にはスウェーデンのラジオ局がオスカルのドキュメンタリーを制作しましたが、この中でラジオ局側がSnookを不当に低く評価しており、リノロス本人だけでなく、スウェーデンのヒップホップ関係者からかなりの苦言を呈される羽目になっていました。

今でもそうですが(というか今はさらに複雑な様相を呈していますが)、スウェーデンのヒップホップカルチャーは移民文化と密接に関わりがあり、2003年当時Snookのようなアイドル的なポップさを兼ね備えたヒップホップというのは珍しい存在でした。彼らがいなければNorlie & KKVやHov1は登場してないわけです。それと同時に、オーセンティックなヒップホップアーティストにも、スウェーデンのヒップホップの間口を広げた立役者としてリスペクトされる存在、それがSnookです。

と、そんなざっくりした彼らの立ち位置を踏まえた上で、時系列順に代表的な音源を紹介してみましょう…というコンテンツです。2023年でデビュー20周年ですしね!!!!

いきなりSnookの曲じゃないんですが、厳密なデビュー曲はAfasi & Filthyとのコラボ曲になります。AfasiことHerbert munkhammarとFilthyことMagnus Lidehällとリノロスはソロになってからも仲良かったりしてますね。MVはキャッキャしていてかわいい…若い…


デビュー前の曲。当時はMy Space全盛期で、そこにあげられたデモ音源は正規にリリースはされていないものの、MP3で公式から配布されていました。この曲はその後のSnookではちょっと考えらないアホなリリックが魅力。


Snookの1stアルバム「Vi vet inte vart vi ska men vi ska komma dit」は当初自主制作にてリリースされました。その後メジャーレーベルからリリースされたバージョンとは収録曲が異なっています。これは自主制作盤のみに収録されている曲。"世界はオレの手の中に/誰もオレをバカにしたりなんかしない"


ここから2004年リリースの1stアルバムからのシングルカットとなります(カットされた順にはなってないかも)。で、Snookの代表曲といえば「Mr.Cool」。この曲のヒットで一躍人気アーティストになったリノロスとレイちゃんでした。


ラッパーのOrganism12(現Organismen)をゲストに迎えた曲。個人的にはこれが一番Snookらしいと思う素晴らしい曲です。Snookという音楽性からすると微妙な立場にある彼らの強い意志が現れていて、青臭くもエモーショナルなリリックと、そのリリックを落とし込んだMV…最高ですね…一番好きな曲です。


歌詞をそのまま受け取るとすごくかわいい片思いソング。「君とホットチョコレートを飲むだけでもいいんだ」。MVの最後がすごくかわいい。レイちゃんはずっとおでこがめちゃくちゃに広い…


ここからは2006年リリースの2ndにして最後のアルバム「Är」からのシングルカット。1stの闇鍋感あるトラックと青臭いリリックからすると、レトロポップな方向性と洗練されたリリックで一体感のあるアルバムになっています。と言いつつ、この曲、タイトルとテーマは結構泥臭くて、Snook結成とラッパーとしての立ち位置と1stアルバムでの成功のお話。リノロスのヴァースの「オレとダンネだけはクールなものが全てアメリカ的であろうとすることにうんざりしてた」というの、すごく良いですね…


で、その言葉通り「アメリカ的」なものを逆手にとって皮肉る曲もやってる人たち。マッチョイズムへの皮肉。一瞬出てくるペンギンの着ぐるみのリノロスとレイちゃんがあまりにもかわいいです。


「あなたがどこからきたか教えてごらん」レトロ感あるおしゃれっぽいMVに意外と風刺色強めの内容ですが、「でもオレは完璧ではないそこから来たんだ」という肯定感あるリリックがとてもSnookらしいなと思います。


出てくる人たち、一人一人の背負ってるものや歩いてきた人生を思わせるモノクロームの映像がとても良いMV。一方リノロスとレイちゃん本人は「幸せってこんな感じ?ノープロブレム、問題ないよ」と歌いながらも不安げで気だるくて寒々しい雰囲気。Snookの曲としては結構異色な雰囲気なのですが、結局そう歌いながらもSnook自体は幸せではなかったし全然ノープロブレムじゃなかったというオチがついてしまうのが悲しい……


で、2016年にSnookとしてではなくソロアーティスト同士として出した曲が「Sitter på en dröm」でした。この曲に関しては「Snookとして出した曲ではない」というのが非常に重要だとは思うのですが、この流れでついでに聴いてもらえれば……「僕の声が聞こえてる?/全てのことは忘れさられた/誰も僕をここから動かすことはできない/僕はまだ夢の中にいる」これってリスナーではなくお互いに呼びかける歌詞なんだなぁ…と思うとものすごく感慨深いですね……

Snookは1stアルバムでスターダムにのしあがり、2ndアルバムで自重に耐えきれなくなって崩壊してしまった短命なグループ。今となっては、ここから先のそれぞれのソロキャリアの方が長いわけですね。それぞれSnookの曲をライブでやったり歌詞で引用することも多く、Snookは黒歴史であるとしながらも、この若気の至りの塊のような存在がアーティストとしての根底にあることを隠していません。それを踏まえた上で2人のソロ音源を聴くのもなかなか楽しいので、そちらの紹介もまた別の機会にできればいいなと思っています。

スウェーデンのヒップホップに興味のない人が、この国のヒップホップの歴史という文脈抜きでSnookを聴いた時、彼らの曲がどのように聴こえるのか私にはわかりません。でも、ゴリゴリなヒップホップは苦手とかスウェーデンのポップスと近しいものなら……という場合には2ndアルバムの「Är」を聴いてみて頂ければ幸いです。


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