ちゃら大学生とサラリーマン


(あーもーお金無いよどうしよ〜!!)

がしがしと頭をかきむしるヒョクチェ。
なけなしの金をつぎ込んだ馬券があっけなく外れ、今月の奨学金をまるっと飛ばしてしまった。

(間違いないって言ったくせに〜も〜!!!)

枕をボスボス叩くも出るのはホコリばかり。

(…家賃も…光熱費も…どうしよ……)

リョウクに電話したら着信拒否されていた。
キュヒョンに電話したら散々あざ笑われたあげくに電話を切られた。
頼みの綱のシウォンは今バカンスだとかでドバイに行ってるらしい。

(…っかくなる上は…!)

手持ちの中で一番キレイめで高そうに見える服を選ぶ。
深めのVネックがヒョクチェの白い肌によく映えた。
以前何度か通ったバーは出会いを求めるその場で、
声をかけてきたサラリーマンについていったらお金をもらえたことがあった。
その人とはその後何回か会ったが会うたびにお金をくれるので、何だか白けてしまい会わなくなった。
でも今は、背に腹は変えられない…。
うまく行けばラッキー、うまく行かなかったら走って逃げる。
ヒョクチェは腹を決めるため、普段はあまり付けないピアスを左耳にだけ刺した。


久しぶりに顔を出したそのバーは、平日だと言うのに意外と賑わっていた。
ドアを開けた瞬間に全身に舐めるような視線が与えられる。
いい加減慣れたけど。
気にしないふりをしまっすぐカウンターに行き、ジントニックを頼む。
お酒を待つ間、何気ない風を装い周りを眺める。
何人かと目が合うも…崩したシャツのホスト風…絶対無し。
ラフなTシャツ…今日はだめ。
うーん…。
と、カウンターの並びにいるメガネのサラリーマンと視線が交わる。
目が合った瞬間にパッと逸らされたが、慌ててグラスに口を付けているその仕草でこっちを意識してるのはバレバレだった。
ふぅん。
メーカーとかよく分かんないけど、かけてる眼鏡も時計も高そう。
スーツもすごく、上等そう。
ヒョクチェからの熱い視線に負けたのか、そのサラリーマンがちらっとヒョクチェの方に視線を向ける。
ヒョクチェはすかさず視線を外し、カウンターに置かれたジントニックに口を付けた。
きつめに利いたジンで心地よく舌が痺れる。
お酒は好きだ。
特にこういう時、シラフではなれなかった自分に変わるきっかけを与えてくれる。
一杯目を飲み終えそうになる時にようやく、彼は話しかけてきた。

『二杯目…良かったら、ご馳走させてくれませんか?』

話しかけ方も、その内容も、良い。
ヒョクチェはゆっくりと相手に視線をやると、とろっと微笑んだ。

「ねぇ、待ちくたびれた」

ヒョクチェの言葉に、相手の表情がグッとこわばる。
それを見るヒョクチェの背中に、ゾクゾクっと欲情が走った。
いつも思う。
こういう駆け引き大好き。



「っは……んぅ………待っ、て……っぁ……!」

ホテルになだれ込み、見た目とは裏腹に激しく求められ焦る。
顔を掴まれ、荒く差し込まれる舌。
待って、今日は…!

「ねぇっ…最後までする?僕その…お金無くて…」

なんとか舌を引き剥がし当初の目的を伝える。
相手はハァハァと荒い息のまま、ヒョクチェの耳裏をその尖った鼻筋でこすり、熱くなった舌を襟足に押し付けた。

『あぁ…今現金、無いんですよね…』

熱くなった舌が耳の穴に差し込まれ、ヒョクチェは思わず声を上げた。

『スマホ、貸してください』

彼はヒョクチェからスマホを預かると、彼とヒョクチェのスマホを手慣れた様子で操作しだした。
ヒョクチェはあっけにとられぼんやりその男をただ見つめていたが、

『…イヒョクチェ?』

ふいに名前を呼ばれビクッとする。
と、ヒョクチェのスマホを返され画面を見るとヒョクチェの口座画面になっており、残高が…

「…っえ?!じゅ、10万増えてる…?!」

バッと相手を見ると切なげに熱を灯した瞳でじっとヒョクチェを見つめていた。
え、なにこの人?!
振り込み人名は…イドンへ…。

「イドンへ…さん?」

ヒョクチェの呼びかけに、ドンヘの表情がピクッと震える。
ヒョクチェを見つめる眼鏡の奥の整った瞳が、ゆるっと細められた。
え、なんか、え…こんな顔だった…?
カチャッと眼鏡を外し、ヒョクチェに近づくイドンへの顔。
バーではキョドキョドしててダサかったのに、眼鏡を外し髪をかきあげる仕草は、あまりにも。

『ずっと…君が欲しかったんです…』

ずっと?それって…?
しかしヒョクチェの思考はあっという間に、どろどろの蜜に覆われ停止していった。


「ひっぁ……っ!も、あっ……!むりっ………!!」

ガクガクと震えるヒョクチェの腰を掴み、最奥に幾度目とも知れない熱を放つイドンへ。
ヒョクチェの白い体にはイドンへが付けたキスの痕や歯型がそこかしこにあった。
ドンヘは薄く開かれたヒョクチェの唇を塞ぎ舌を差し込んだ。
もはや舌を絡め返す余裕も無いのか、ハァハァと荒い息ばかりが唇に当たる。

『…抜きますか?』

尚も奥にグッと腰を押し付け、答えは分かってて問う。

「まだ……っ…する……」

トロリと向けられるその眼差し。
ドンヘの腕に弱く添えられる手。
唇はとうに真っ赤に、煽るような色に。
ドンヘはそんなヒョクチェを見下ろしながら、ゾクゾクと走る欲情にその身を預けた。

ヒョクチェのことはずっと手に入れたいと思っていた。
前に見かけたときから、ずっと。
冴えないサラリーマンに持ち帰られるのを横目で眺め、ならあんな風であれば君を手に入れられる?
ずっとこの機会を待ち望んでいた。
彼が望むものが何であれ、いくらでもあげたい。

ヒョクチェの白い腕が首の後ろに回され、ねだられるままに唇を押し当てた。

『舌を出して』

「はい…」

ドンヘの言葉に素直に応じるヒョクチェ。
差し出された桃色のそれを唇で挟み、やわく歯を立てる。

「っん……」

痛みにぴくんと眉根にしわを寄せるも、恍惚の表情を浮かべ瞳を細めるヒョクチェ。

ますます気に入った

『ヒョクチェくん、名前を呼んで?』

「んっ…ドンヘ、さっ……んぅっ……!」

『そう…上手』

パァンという乾いた破裂音にあわせ、ヒョクチェの背がグッとのけぞる。

『ははっ…叩かれるの好きですか?』

「あっ……あ……」

強く叩いたせいかヒョクチェの白い尻たぶには赤い花のような痕が付いた。
グッと腰を奥に押し付けるタイミングにあわせ、もう片方も音を立て叩く。

「ひっ…!う……っ……!」

ヒョクチェは体を震わせると、シーツにぼたぼたっと汁をだらしなく零した。

『ははっ……』

ドンヘはうつ伏せに倒れたヒョクチェの髪を掴み上を向かせ、開いたままの口を深く塞いだ。

「うぅ…痛いぃ……」

身じろぎし唇を離すヒョクチェ。思いのほか強く彼の髪を掴んでしまっていたようだ。

『あっ、ごめんなさい、痛かったですね』

ドンヘはパッと髪を離すと、クタッと力の抜けて横たわるヒョクチェをすくい上げるように優しく抱きしめた。

「ドンヘさんって……絶倫…?」

荒い息をまといながらも笑みを含んだ吐息がドンヘのこめかみに当たる。

『ふふっ…じゃないですけど、だったら嫌いですか?』

ヒョクチェは腕をドンヘの首に絡めたまま、汗で濡れたドンヘの鎖骨に舌を押し当てた。

「汗すっごいね笑」

ドンヘの鎖骨を滑る舌。この子は天然で、こうなんだろうか?計算?
どっちにしても、好きだけど。

「絶倫なドンヘさん〜意外すぎ笑」

まだドンヘのモノを入れたまま、コロコロと無邪気に笑うヒョクチェ。
愛しさに一瞬溺れそうになる。

「でも、ドンヘさんとするのは…超好きかも……」

ぎゅっとドンヘの瞳を見つめたままそうのたまうヒョクチェ。
瞳にラブホの安い照明の光が入り、そのキラキラと反射した光がドンヘを照らす。

『はは……君のこと好きって言ったら引きますか?』

ヒョクチェの軽やかな足がゆるっとドンヘの太ももの裏に回される。

「僕…好きって言われるの…大好き」

いたずらに微笑み細められる瞳。
その瞳に見つめられ、後頭部がグラグラと茹だりそうになるのを感じる。

「ね?だから…もっかいしよ…?」

甘えたような舌ったらずな声音が耳をくすぐる。
ドンヘはねだられるがままにその唇を塞ぐと、それは終わりの味がした。



結局それからもねだられるままに抱き合い、最後はお互い倒れるように汗や甘い汁の沁み込んだベッドで眠りこけてしまった。

「………んぅ………っ!やっば…!!」

ヒョクチェはガバッと飛び起きバタバタとシャワー室に駆け込んだ。
その音でドンヘも泥のような眠りから這い上がり片目を開け枕元に置いた時計を見ると、時刻はすでに8時半を回っていた。
…午前中に会議もアポもない。もう少し寝ようか。
枕に頭を預けると再び眠気が襲う。
イヒョクチェ…帰宅したら一通り調べよう…。
バタバタとシャワー室から飛び出してきたヒョクチェは頭をゴシゴシタオルで拭きながらそこかしこに脱ぎ散らかした服をあっという間に身につけていく。
ドンヘはその様子をまだ靄がかかったような頭でぼぉっと眺めていた。

想像していたよりもはるかに、良かった。
コロコロと楽しそうに笑うさまや、組敷いた時の体のやわらかさ、こちらが煽られるほどの感度の良さ。
今会っているのに、もう会いたい。
きっと今から君はここから飛び出ていくんだろう?
あぁ、縛り付けたい…。

ヒョクチェはあっという間に身支度を済ますとベッドに身を置くドンヘのそばに駆け寄り、ドンヘをシーツごとぎゅうっと抱きしめた。

「ドンヘさん、ごめんね。1限絶対落とせないやつだから、もう行かないとなんだ」

『はい…』

ヒョクチェは無精ひげの散らばったドンヘの頬に唇を押し当てた。

「お金、たくさんありがと!次はお金無しでいいから、また会ってね?」

ヒョクチェはチュッチュと音を立てながらドンヘの頬に何度もキスをした。

「じゃあまたね!僕行くね!」

パッと身を翻すとあっという間に部屋から飛び出していってしまった。

ヒョクチェが去ると部屋はほの暗く、ガランと広くなったように感じた。
しかし…

イヒョクチェ、イヒョクチェ…

飴を口の中で転がすように、彼の名前を何度も反芻する。
イドンへの整った美しい顔には笑みが広がっていった。




























この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?