若ヘウン①

ああもう…今日もうまくできなかった。
なんであんなこと言ったんだよ。


自室のドアを開けたら同時に部屋を出るヒョクチェと鉢合わせてしまった。

『………おぅ』

「…おぅ」

一瞬目が合ったのに、お互いすぐに逸らしてしまった。

『……デート?』

「……うん、ヒョクも?」

『……うん』

「じゃあね」

ヒョクチェの顔も見ずに宿舎を出る。
背中に視線を感じながら。

こんな、気まずい感じ本当はいやなのに。
なのにあれ以来、うまく接することができない。
あぁ言われて以来。

"僕お前のこと、ちょっと本気で好きだった"

みんなの前で冗談めかせて言って、みんなも冗談で流してた。
そりゃ冗談だからみんなの前で言ったんだろ?
別に意味なんか無いんだろ?
なのにあれ以来ヒョクチェのことを意識してしまって、
今までどう自然に話してたのか、どう自然に触れたりできてたのか、分からなくなってしまった。
ヒョクチェはまさか俺がこんなになるなんて思わなかったんだろーな。


『ねぇドンヘ聞いてる?』

ハッと顔を上げるとこちらを睨みつけるヌナが。

「ごめん、聞いてなかった」

デビューしたとは言えお金の無い現状は変わらず、女の子に誘い出されてはいつもこうしてご飯を食べさせてもらってる。
怒って頬を膨らます顔はたしかに可愛いが、チラチラと脳裏にヒョクチェが浮かんでしまいデートに集中できずにいた。

『も〜!あ、ねぇ、今日泊まってくでしょ?』

ヌナがドンヘに体を密着させながら囁く。
くっきり塗られた赤い唇がヒラヒラと動いている。

「んー…やめとく。明日早いんだ」

こんな変な気持ちのまま女の子を抱けない。
ヒョクチェは今日どんな服着てた?どんな表情してた?あぁ、早く会いたい。


ヌナの家の前まで送りバイバイと手を振ると、ヌナがおもむろにキスしてきた。

「わっ」

『今度は泊まってってね』

ヌナはひらひらと手を振り、あっという間に家の中へ消えていった。
柔らかな感覚だけをドンヘの唇に残して。



「ただいま〜…」

今日はヒョンは収録だし、ヒョクチェもデートだって言ってた。
案の定リビングは真っ暗で、ドンヘはなんだかがっくり来てしまいトボトボと自室に戻った。
もうどうしても、ヒョクチェと喋りたい。
くだらないことでいい。
ドンヘが避けていたにも関わらず、どうしてもヒョクチェの側にいたくなってしまった。
ザッと服を脱ぎ部屋着に着替え、なんとなくヒョクチェの部屋に行きベッドに潜る。

(わぁ……ひょくのにおい………)

枕のにおい、毛布のにおい。
全部がヒョクチェ。
なんだか安心してしまい、安心したら途端に眠くなってきた。

(10分だけ………)

まぶたを閉じるとあっという間に眠ってしまったドンヘだった。



『は……?だれ…………?』

深夜遅くに帰宅しこっそり自室に戻ると布団の中が盛り上がっており思わずビクッとする。
おそるおそる近寄り覗き込むと、それはドンヘだった。

『なんだよドンヘか………びっくりした………』

毛布をぎゅっと握りしめすやすや眠る顔はまるで子供のようだ。

なんで僕の部屋にいるんだ?

疑問に思いながらもパジャマに着替え、少しためらうも結局ドンヘの眠るベッドに潜り込む。

僕のベッドだし…

狭いベッドのため、どうしても密着せざるをえない。
でも、向かい合うのはさすがに気まずい。
考えた末ドンヘに背を向けなるべくベッドのはじに行き、目をつむると途端に眠気に襲われた。

僕のこと避けてたくせになんなんだよ…

でもドンヘがそばに来てくれたことが嬉しかった。
背中に感じるドンヘの体温が、気恥ずかしくも嬉しかった。
ドンヘの安らかな寝息を感じ、ヒョクチェもあっという間に眠りについてしまうのだった。


なんだかあったかいし、いい匂いがする……

まどろむ中でぼんやりと目を開けると目の前に人が。

オンマ?ヒョン?

久しぶりの人の体温に嬉しくなり、ぎゅうっと抱きつく。
いい匂い。好きな匂い。オンマとは違うけど大好きな匂い。なんだろ……

ハッと目を覚まし目の前の後頭部を見つめる。

これ、ひょくだ!

ヒョクチェからはすぅすぅと定期的な寝息が聞こえてくる。
抱きしめてしまったので起きちゃったか不安だったけど、身じろぎしないヒョクチェはどうやらそのまま寝てるようだった。
ドンヘはドキドキしながらも、ヒョクチェの背中に頭を当てる。
一緒に寝てくれている事実が純粋に嬉しかった。
ヒョクチェの背中からは、呼吸する音と心臓の音が聞こえる。

ひょく…

おずおずともう一度抱きしめ、ヒョクチェの体温を感じながらそのまままどろみに落ちていくドンヘ。



ん〜………

人がいる………

邪魔だけど……なんか、うれしい………

抱きしめていた相手はやはり、ドンヘだった。
背を向けて寝てたはずなのに気づいたら抱きしめてたようだ。

僕のベッドで寝るドンヘが悪いんだ…

開き直り、ドンヘを抱きしめ直すヒョクチェ。
瞳を閉じているドンヘの顔は、ちょっとびっくりするくらい、美しい。

ドンヘのことを本気で好きだったことがあるってみんなに、冗談めかして話した。
冗談めかせば、全部冗談に、全部軽くなるかなって。
でもそれは、口に出すことでより現実味を増してしまい、ドンヘが好きな事実を目の当たりにしてしまった。
好きだったなんて、過去みたいに話して。
今でもこんなに、好きなのに。



『ん〜………ひょがぁ…………』

突然発せられた自分の名前にビクッとする。
ドンヘのまぶたが震え、ゆっくりと開けられる。

『あ…………ひょく…………』

ぎゅっとしていた体を離そうと思うのに、目を覚ましたドンヘは未だにヒョクチェを抱きしめたままだった。

『ひょく………おはよ………』

まだ眠いのか、頭をヒョクチェの肩にコテンと預け夢うつつに話すドンヘ。
ドンヘのもふもふもした髪に鼻を埋める。
ドンヘの匂い。
好きな匂い。

「おはよじゃねぇよ………なんで僕の部屋にいんの」

そんな言葉とは裏腹に、抱きしめた手をゆるめず、ドンヘの髪に顔をうずめたままのヒョクチェ。
ドンヘは一瞬とまどうも、抱きしめる手を強め、より深くヒョクチェにくっつく。

『へやまちがえた………』

途端、フフッと笑う声が聞こえる。
下手な言い訳すぎた?
ヒョクチェを見上げるドンヘ。
ヒョクチェはまだ夢うつつなのか、目をつぶっていた。

「あっそ……」

唇が前髪に押し当てられる。
これ、好き。

「…ねぇお前、唇赤いよ」

え、あ…。
視線を上げるといつの間にか目を開けてたヒョクチェの視線が、ドンヘの唇に注がれていた。
昨日ヌナにキスされて、唇拭かないで寝ちゃったんだった。

「昨日キス…したの?」

ヒョクチェの、意外と厚い唇。

『うん、した』

ヌナの柔らかい唇を思い出す。
ヒョクチェの方が、柔らかそう。

「ふーん……」

ヒョクチェが体を離しそうな気配がしたので思わず抱きしめる手に力を込め、
ヒョクチェを見上げるドンヘ。

『ひょくは昨日、した?』

「……した」

ヒョクチェの唇をじっと見つめる。
昨日ヒョクチェは、誰かとキスをした。

『………ずるい』

「……は?」

『ずるい』

赤く染まった唇のまま、ヒョクチェの唇に唇を押し当てる。
ビクッと震えるヒョクチェ。
スッと唇を離しヒョクチェを見上げると、ヒョクチェの顔は真っ赤になっていた。

「お前なに…なにすんだよ………」

今俺たちくっついてること、分かってる?
ヒョクチェのがおっきくなってることバレバレなの、気付いてる?

『俺とはしないで、他の子とキスすんのずるい』

もう一回キスしようと顔を近付けると、ヒョクチェが顔をそらした。
ムッとし、ヒョクチェの顔を掴みもう一度キスをする。
ヒョクチェの体がビクッと震える。
…もう少ししてもいいかな?
ヒョクチェの厚い唇を優しくはむ。

「んっ…」

ヒョクチェのこの、鼻から抜けたような甘い声、好き。
ふっくらしたやわらかい唇を、舌で舐める。

「やっ…ドンヘ、おいっ…!」

逃げようとするヒョクチェの腰に足を回し、逃げれないようつかまえる。

ヒョクチェのは分かんないけど、俺のはこれは、朝だから。
朝だからこうなってるし、これは生理現象だから。
…たぶん。

じれったくなり、ヒョクチェの顔を掴み声を出したすきに舌を差し込む。

「ぁっ…なっ……?!っ……んぅ………」

唇がやわらかいヒョクチェ、舌もとても、やわらかかった。
舌の交わるこの感覚。
ヒョクチェの舌に、俺の舌が絡まってる。
これって普通?
友達でもする……よね?

ただ下半身にはもう生理現象とは呼べないほどの反応が起きてて、
でもヒョクチェのもそうで、
これってなんなの?分かんないけど、好き。
もっとしてたい。ずっとこれ、してたい。

ドンヘの胸を押し離れようとしていたヒョクチェの腕はいつしかドンヘの背中に回され、
溶け合いそうなほど二人は密着していた。
受け入れるばかりだったヒョクチェの舌もいつしかドンヘのそれに自ずと絡みついてきていて、
頭がぼんやりと興奮で霞む。


コンコンコン!

ハッとドアを見つめる二人。

『ヒョン〜ごはんできた〜』

ドンヘからガバッと体を離し、ドンッ!っとベッドから落ちるヒョクチェ。
ゆるっとしたサイズのパジャマでもはっきりわかるほど、ヒョクチェのそれは、おおきくなっていて。

「ご……ごはん………だから………部屋、行け」

『ひょく…』

「っはやくっ!!行けよ!!」

ベッドから下ろされあっという間に部屋を無理矢理追い出されてしまった。
ヨタヨタと前かがみになり自室に戻るドンヘ。
ドサッと自分のベッドに倒れ込む。

さっきまでなにしてたんだろ…あれはほんとにしてた……?
唇を触るとジンジンとぼやけていて、キスしていたことを思い出す。
ほらやっぱり、夢じゃない。
俺がキスして、ひょくも受け入れてた。
でもそれが、どういうことなのか、どういう意味なのか、よく分からない。
うまく考えることができない。
でも…

『仲直りできてよかったぁ…』

枕に顔を埋め、二度寝を決め込むドンヘであった。



その頃ヒョクチェは…

『なんなんだよっ……あいつっ…まじでっ………』

いろんな感情が高ぶりすぎて布団に包まりしくしくと涙を流していた。
諦めようと思ったのに。好きでいちゃいけないって気持ちを押し殺してたのに。
こんなことされたら…無理だよ。



つづく



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