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現実を受けとめる父

つい先日、私の実家の父から、私含め兄妹3人にすぐに時間が欲しいと言われ、日曜日に実家へ行ってきた。
実家のグループLINEの様子から、なんとなく重い空気をまとっていた。

私と姉は約束の10分前に近くの駐車場に着き、2人で顔を見合せ、早いけど行こうかと雨だからなのか足取りも重くとぼとぼと歩き出す。

冷たい雨の音が傘にひびく。
私と姉は、お互い何となく父の体のことを口にはせず、母や兄の話をしながら実家へと向かった。

実家へ着くと玄関先に雛人形が飾ってあって、大きくて全部は並べられないからと、お内裏様とお雛様をだしたばかりの母が迎えてくれた。

実家は兄と兄の息子の同居で、この家にはもう女の子はいないのに、私たちが来るからと、母はわざわざ用意してくれていたのかもしれない。
母の気遣いが、少し苦しかった。母の今の姿から、腰もすっかり曲がって昔は白髪染めをこまめにしていて髪の毛もお化粧も比較的同世代の方よりもずっと若さを保っていて、そうしていつも家族の中では太陽のような存在の母が、今日はとてもつらそうに見えた。

母は雛人形を出していたので、片づけてから行くと空き箱の整理をする母を横目に、私と姉は居間のある2階へと先に上がった。今思えば、雛人形出してくれた事へのお礼も言えなかったし、一緒に片づけてから2階へ上がればよかったと、後になって思った。実家だとつい子どもになるから、甘えてるんだな。

2階にある居間では、すでに父がキッチンにいた。

父を見て、思わず目を逸らしてしまった。父は明らかに、痩せていた。

ほどなくして同居の兄が来た。
なんとなくどうでもいい話でその場を繋ぎたくて、お茶何飲む?とか、コーヒーどのカップ使うんだっけ?とか、気持ちばかり空回りしている自分に、変に思われないか動揺していた。

皆が揃い、父は集まってくれたことへのお礼を言った。
まだ兄には話してなかったらしく、みんなが揃ってから話したかったとの事。

父は一番最初に病名を告げた。

父は、自分の身体のことを、紙とペンを用意し時系列に書きながら話し始めた。
いついつ、どうも調子が悪いと気づき、その頃母方の兄が亡くなって法要があった頃だったからそこからどう体調が悪くなっていったか。
病名を宣告されたのは、私たちに集まって欲しいと連絡をくれたその日だから、4日前の事だった。

父は淡々と病気について話をし、治療法を説明書を見せながら、オレもよくわかんないんだけど、と言う。

私は1文字も逃したくないから、集中して聞いていたけど、いつもの語り口調は変わらないままの父だった。
それに合わせるように、今の状況を私はいつものように聞く。こうゆう時、末っ子というのは空気が読めなくて、父が気丈に振舞っていたのか、そんな雰囲気を感じさせない父の話し方に、私はいつものように話しかける。
臓器が再生する、しない、の話の時にはドラゴンボールのセルみたいだね、とか兄に話を振ったり、なるべくその場のジメジメがイヤで、平気なフリをしていた。
横で姉は涙をためて、鼻をすすらせている。兄は、説明書を見て、副作用けっこうあるみたいだね、と。

なぜ今回みんなを集めたかを、父が続けて話してくれた。
明日から2週間の入院で化学療法との事。点滴でどうやら細胞に働きかける何かをやるらしい。説明書を見ても、私はなんの文字も入ってこなかった。
その治療が合わなかったら、今みたいな状態で家に戻れるかわからないから、と。

父は今、お寺さんの総代という役を務めていて、12年に1度しか回ってこない大きな行事をまとめるのに忙しいらしい。
すっかり痩せてきてすぐにくたびれてしまうらしく、父曰く、本当はしんどいから辞めさせてもらおうと思ってると。でも、お母さんが続けろって言うんだよ、と父 愚痴る。
私は、母にそれはどうしてそう思うのか尋ねた。
母は涙目になりながら、こうして社会に出て誰かに話したり、外へ出ていないと気持ちも落ち込むし、大体家にいる時でさえもほとんど横になってるきりで(ボケるのが…)、そこまで話した時に私はあわてて遮った。
「私もそれは思う。」
父が社会的に出ていられる事で、気を張っていたり、身だしなみを気にしたり、誰かに話しをする事で社会と繋がってることの方が大事だと思った。

父はそれでも、役員の人たちに迷惑かけたくないと言っていたが、私はそんな貴重な時期に誰でもができるような役ではなく、選んでもらえた時期とそこに携われることはすごく名誉なことなんだよと、父が社会に関わっていることの重要性を訴えた。

すると、父、「うん。わかった」

父、単純。

娘に言われたらすぐ言うこと聞く、と母の横やりにみんなの顔がほころぶ。どうやら母からの言葉はシャットダウンしてたらしい。夫婦って。。。

一部の人でもいいから病気について話して、手助けお願いする部分はお願いしてみたら?と私。
そこに関しては、父は頑なに、こういう事は口外するべきじゃないと。
誰が何を尾びれつけて言いふらすかもそうだし、周りに気を遣われるのも(いやだ)、、、。
現状を、知ってもらってたら何かあった時に対処出来ることもあるかもしれないと思う私。
大きな役をやっているうちは、それが終わるまで周りに迷惑かけまいとする父。

それを聞いて、迷惑って言うひとくくりの意味の中に色んなものを背負って、その役とか関わるお寺さんとか(家族とか?)守っているのかな、と感じた。

父は、現実をしっかりと受けとめ、治療もやるだけの事やっていくと話してくれた。
正直、聞く前は動揺しかない私だったけど、腹くくった父が、すごいな、って。
お父さん、すごいね。よく現実に目をそらさずに受けとめていて、すごいねって。私どんだけ上から目線だよ。

何かのせいだとか辛い事を当たったりせず、投げやりになることもなく淡々と家族の事やこれからの事を話していた。
今できることも手続きし始めているらしい。


私は多分大丈夫じゃない?と思っている。
私の思う根拠の無い自信は、だいたい大丈夫だからそうなるのを信じている。

最後まで読んでくれて、
本当にありがとうございます。
またもや長文すぎ。


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