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「手」との出会い、その難しさとこれからの楽しみ

こんにちは、パフォーマンスビルダーの三浦千紗子です。

今日は「手」の話をさせてもらいたいと思います。
「手」と言っても何を??って思いますよね。
とある理由から、約10年間私はひたすら手について考えてきましたので、そのお話です。

1、 手と人間の体の関係

昔むかし、皆さんもご存知の様に人間の祖先は猿だったと言われています。
四つん這いで動き、木に登り餌を探し生命を維持していました。
それが進化の過程を経て二足歩行になり、現在の人間の姿に進化してきました。
二足歩行になったことで手は前足の役割から、現在の「手」へと進化し、人間特有の細かい動きができるようになったのです。
日常生活の中で何かを握る、刻む、撫でる、つまむ、引っ張る等々、さまざまな動きをしている手。スポーツや音楽の面から見ても、力を伝える、投げる、叩く、弾く、操縦する、など多くの役割を担っています。
指先に小さな切り傷が出来てしまった時や、不意に手を怪我してしまい手元に不自由が生じると、日常生活の中で多々不自由を感じることがありますよね。そんなとき私たちは生活の中で頻繁に手を使用していることを痛感すると思います。
そして、これらのさまざまな細かい手の働きは、動物にはない人間ならではの体の機能なのです。


2、 手との出会い

私はある時までは手について深く考えることなく生活していました。
が、その日は突然やってきたのです笑
「クライミング」との出会い。

東京オリンピック開催種目に採用されて以来、メディアでの露出も増えましたので、目にしたことがある方も多いと思います。岩やホールドという突起物を使って壁を登るアレです。
とあるクライアントさんがクライミングをやっており、その競技力向上のためのトレーニングをすることになったことがクライミングとの出会いでした。
東京オリンピック開催で開催される競技としてのクライミングは「スポーツクライミング」というカテゴリにあたり、クライミング用に作られた人工の壁にホールドという突起物を使って行うものですが、自然の山や岩を登ることが起源です。素人が見ると「どこを掴むんだろう?」というような岩肌を見てクライマーたちは燃える(萌える)そうです。
また、小学生くらいの子供から、還暦を越える方まで幅広い年齢の方が楽しめる生涯スポーツとしての側面もあります。ホワイトヘアーの女性が颯爽と壁を登っていく姿は、とてもかっこいいものです。
今となっては、このようにクライミングの説明をすることができますが、初めてクライアントさんの話を聞いた当時はまだまだオリンピックの話なんて「オ」の字も出ない時。「クライミングって??あの登るやつだよね??」くらいの会話しかできませんでした。
ただ、クライミングの仕事をするのであれば「手」のことを考えないわけにはいきません。そこから私の「手の時代」が始まりました。


3、 手の難しさ

始まったは良いものの、まあこれがとにかく難しい!
なぜかと言えば「情報が少ない」の一言に尽きます。
もちろん学校で基本的なことは勉強しましたが、体の中でこれだけ情報の少ない分野も珍しいのでは?と思うくらい、情報は少なく、トレーニングのトピックもなかなか出てきません。
昨今、さまざまなメディアやサービスを通じてトレーニングが普及してきていますが、皆さん手のトレーニングを目にしたことってありますか??
ちなみに今ここで話している「手」は「指、手のヒラや甲」あたあたりのイメージです。
クライマーはそのホールドを掴む力を「保持力」と言うのですが、その指の力が彼らにとっては欠かせないワードで、「保持力を向上させるためには何が必要なのか」ということが彼らのニーズの一丁目一番地。だけど、私は体の一部のパーツを酷使することを良しとしていないため(絶対に怪我します笑 せっかく生涯楽しめるクライミングなのに、怪我をしたら生涯楽しめなくなってしまう…)、保持力をただの「指や手」の力と限定せずに、どうやって体の取り扱い説明書を活かしていくか。そこが「手」を考えるにあたってのミソになる部分となっていきます。
人間ならではの体の機能を活かすこと、それが体の取り扱い説明書を考えるうえで大切な視点です。この人間ならではの「手」の仕組みと役割を読み解き、その強化方法を考えるという命題はとても難しくもあり、面白くもあります。
そこで、私は理学療法士や他のトレーナーとチームを組み、3人寄れば文殊の知恵とばかりに、ああでもないこうでもないと擦り合わせを重ね、時にクライマーを交えて実験・検証しながら自分たちなりの考えをまとめ、仕事を進めてきました。


4、 その先に待っていたこと

このような日々を過ごして早数年。
結果的に大きく2つの出会いと気づきがありました。

① この「手」の概念がクライマー以外の多くの人にとっても伸びしろであるという気づき

パフォーマンスビルダーのトピックでも取り上げましたが、皆さんランニングをする時に手のトレーニングをしようと思いますか??
クライミングの仕事を通じてひたすら「手」のことを考えながら、他の競技での仕事を並行して行った結果、「手」の概念はクライミング以外のどんな競技にもプラスの影響をもたらすことに気づきました。なぜなら普段トレーニングや体づくりをするにあたってほとんどの競技で「手」はあまり意識されていないからです。
人間のパフォーマンス構築にあたってまだまだ未開拓の伸びしろ、それが「手」です。
例えば野球のようにボールやバットを握るなど、わかりやすく手が関係している競技だけでなく、例えばフィギュアアスケートのように一見手を重要視しない印象のある競技にも手は大きな役割を果たしています。フィギュアスケーターに手の要素を入れたらよりジャンプは跳びやすくなり、体の安定感は増し、動きの緩急をつけられることで演技の魅せ方が変わってくることでしょう。
また、スポーツだけではなく、日常生活はもちろん、音楽など楽器を演奏する際には楽器の扱い方、音の奏で方に関して新たな見方を提供できると思います。




② 自分たちの検証の結果を本にまとめてパフォーマンスビルダーの仕事を提供できた
直接顔を合わせていないクライアントさんにも「本」という媒体を通して、クライマーに必要な体の見方、体の使い方をお届けできる機会に恵まれました。
「CLIMBER'S BIBLE」



面と向かって対峙している目の前のクライアントさんではない方、より多くの方に自分たちの仕事の成果を届けられるという、私にとって新しい仕事の形との出会いでした。
とある時、クライミングジムにいた際に隣に座っていたクライマーが私たちの本を熱心に読んでいてくれた姿を見た時には感無量、なんとも言えない嬉しさがこみあげてきたのを覚えています。
「防げる怪我は予防し、生涯自分の好きなことを楽しむ」→クライマー向けに変換すると「指や体の怪我を防ぎ、生涯クライマーでいること」というミッションを達成するためにまとめた本を通して、どこかで誰かがクライミングを楽しむための一助となっていたら、それはとても嬉しいことです。
そしてこの「手」の謎を解明するためにいっしょにチームを組んだ仲間との仕事はとても魅力的で、それぞれの知識と経験を持ちより一つの考えをまとめるというプロセスは貴重な財産になりました。この仕事は絶対に自分一人ではできない仕事だったと思います。


5、 おわりに

「手」について考えたこの10年。
大学を卒業してトレーナーとして活動しようと思った時、まさか自分が「手」について考えるとは思ってもいませんでした。でもこの「手」を通してできた経験や人とのご縁は間違いなく自分の大切な個性の一つとなっており、自分がパフォーマンスビルダーとして活動する上でのきっかけを与えてくれた経験でもあります。
そしてここからは「手」の概念をクライマーの皆さんに還元しながら、クライマー以外の方へも提供することによって、皆さんのパフォーマンス構築のお役に立てたらと思います。





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