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パフォーマンスビルダー三浦の視点 #2~羽生結弦選手の財宝を探す


こんにちは、パフォーマンスビルダーの三浦千紗子です。
2020年12月26日に長野県で開催されたフィギュアスケート全日本選手権男子シングルスにて王者奪還を果たした羽生結弦選手。
今日は、羽生選手のパフォーマンスに関して、勝手ながらおしゃべりしてみたいと思っています。

羽生選手は言わずと知れたトップアスリート。
余談ですが、、97歳になる私の祖母(超元気です!?)も「結弦くん」と呼び、この全日本選手権の日は結弦くんの演技を見るために、そして翌日は解散間近の嵐のテレビを見て二夜連続の夜ふかしを楽しんだそうです。
全国津々浦々、いや全世界中でこうやって幅広い世代の人々を魅了しているんだろうなあと、孫としても羽生選手への興味は尽きません。

もはやアスリートの域を越えて、人々に大きな影響を与える存在の羽生選手。それでは、パフォーマンスビルダーの目線(体の目線)で見ていきたいと思います。


1、羽生選手のジャンプを紐解く  

言わずと知れたオリンピック2連覇の実績。しなやかさと強さを併せ持った動き。
演技に加え音楽や衣装の見事な表現。常にチャレンジし続け、チャンピオンでいる姿は多くの人々の心を捉えて離しません。
そんな中で、、
羽生選手にお会いするような機会があったらちょっとだけお話してみたいことがあります。
それは「ジャンプの跳び方」です。
現在の膝を中心に跳ぶジャンプから股関節・体幹・背中を使用して跳ぶジャンプへ移行したらもっとパフォーマンスに磨きがかかりそうだなあと感じています。
もう現状のレベルが高いのは大前提ですよ!
だけど、パフォーマンスビルダーのお仕事は「怪我の予防」と「パフォーマンスの構築」。
選手が怪我に苦しむことなく、存分に自分の競技を満喫して欲しいという私のお仕事魂がちらっと顔を出してしまうのです。

その理由がこれです。
現在の羽生選手は膝の屈伸のパワーを多分に活用してジャンプをしている状態です。そこに、股関節の屈伸のパワーをより活かして跳ぶことで、様々な利点を得ることができるなあと。膝周りと股関節周りの関節について考える時、より強固で大きなパワーを生み出せるのは圧倒的に後者で、自分の体を触ってみれば理解しやすいと思います。

●股関節
股関節の周りには大きな筋肉がついています。
膝に比べて頑丈な関節である股関節は、何度も何度も繰り返すジャンプに怪我をせずに耐えられる上に、膝に比べて大きな力を生み出すことができます。
●膝
一方で膝は関節の構造上摩耗しやすい関節です。
さらに、フィギュアスケート特有のジャンプでもある「回転を伴うジャンプ」には不向きだという特徴があります。
なぜなら、膝関節は“ひねり”の力にとても弱い関節だからです。



2、人間の財宝「黄金の三角形」 

 ここで私が人間の財宝だと思っている黄金の三角形の話が出てきます。 (「体のトリセツ #3 ~黄金の三角形」参照)

では、黄金の三角形はフィギュアスケーターにとってどんな影響があるのか。
黄金の三角形が機能することで、「1」でお話したように膝関節ではなく股関節をフル活用したジャンプが可能となるのです。 フィギュアスケートの場合は片足でジャンプを行いますが、そのジャンプの踏切りの瞬間、そして着氷の瞬間に黄金の三角形の状態がどうなっているかという部分がポイントです。(尾てい骨のあたりから、背中を介し頭までが一直線になっていると黄金の三角形が機能していると判断できます)。 

 先日の全日本選手権の際の動画を拝見しても、標準スピードで再生していると、黄金の三角形が機能しているように見えます。
ただ、スロー再生した際に、そのジャンプの踏切りの瞬間・着地の瞬間に黄金の三角形が一瞬崩れてしまっていることに気づいてしまうのです。

羽生くん2


と言うことは、羽生選手のジャンプは膝を中心に成り立っていることがあるということ。膝関節へのストレスが大きく、ジャンプの練習をすればするほど股関節を使ったジャンプに比べて疲労を蓄積しやすい状態にあると推測することができます。
片足で、しかも氷の上で回転してジャンプするのは人間技とは思えない動きです。とても難しい動きをしているので、膝関節を使ってしまうのは仕方のないことだと思います。特に「片足で」という部分が鍵です。
このように動きが難しく、複雑になる中でいかに良い動きをつくるかという部分がパフォーマンスビルダーの仕事として最も知恵を使い、踏ん張りどころでもあります。

3、お宝がもたらしてくれるもの

股関節を活用することで、体幹や背中のパワーを動員して跳べるようになります。
ジャンプする瞬間に、誰かに背中を持ち上げてもらったらとても跳びやすく感じますよね(テレビなどでも、選手がハーネスを装着してコーチが釣りのように引き上げていますよね?!)。
そのような状態を自身の体だけでつくり上げることができます。

そうすることで、
・耐空時間が増えジャンプの難度を更に向上させることができる
・ジャンプへの飛び出しがより安定するので、空中での姿勢も安定
 しやすくなる

ことが考えられます。

●着氷にもメリットが!
膝をメインとしたジャンプは、着氷が安定しにくいだけでなく、膝や足首(小さな関節)に大きな負担を強いてしまいます。着氷時にも股関節を用いることは、大きな衝撃を股関節という大きな関節で吸収できます。そして、次のジャンプや動作への移行がスムーズになり、フィギュアスケートのように連続してジャンプをするようなシーンではその効果は絶大です。

山登りを思い浮かべてみてください。
人間の体は、登りよりも下りの際に体への負担が大きくなるような仕組みになっています。フィギュアスケートの場合も例外ではなく、着氷時の体へのストレスが怪我や疲労の大きな原因になるので、着氷時の体の使い方を工夫するだけでも怪我のリスクは軽減できるのです。
(ちなみにお正月の風物詩「箱根駅伝」を考えてみても面白そうです。5区と6区を比べても、下りの6区には魔物が住んでいると言われていますよね。恐ろしい…。)



4、おわりに  

ジャンプをする上で、体の特性をうまく活用し、それに伴う体づくりをすることで痛みや怪我のリスクを軽減し、疲労をためにくくすることができます。その状態で良い練習を繰り返すことにより、自身の理想とするパフォーマンスに近づくはずです。

選手には選手なりの試行錯誤があり、現在のパフォーマンスに至っているはずなので、ご本人の話を聞かないうちにあれこれ述べるのは自分のスタイルに反しますが、
ここで書いたことが何かしら選手に良い影響を与える可能性があるならばと思い、(大変、大変センエツながら)今回は羽生選手のジャンプを取り上げました。

防げる怪我は予防し、羽生選手が考える最高のフィギュアスケートパフォーマンスに出会う、到達するための多少のきっかけになれたらという考えからこのNOTEを書かせてもらいました。
羽生選手が大好きなフィギュアスケートをより一層堪能できるよう応援しております!

画像引用:shutterstock







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