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東京オリンピックシリーズ #5 ~陸上(短・中・長距離走)/人間の体を究極に活かすための挑戦

より速く走る、より高く・遠くへ跳ぶ、より遠くへ投げる、等々極めてシンプルなお題のもと各国のアスリートがパフォーマンスを繰り広げる陸上競技。競技が始まるとついつい見入ってしまいます。
陸上競技の中でも今回は「より速く走る」ことについて、パフォーマンスビルダーの視点からお話したいと思います。
ポイントは「前輪駆動」です!


1、人間の体を究極に活かすための挑戦

短距離、中距離、長距離、その長さは違えど自分の体ひとつで「誰が一番早く走れるか」を競うものです。
私がパフォーマンスビルダーとして活動する際に大切にしていること、それは「人間としての体の機能を活かすこと」です。四足歩行から二足歩行へと進化した人間。歩く、そして走るという行為は人間ならではの特権です。
「より速く走る」ということは、その人間ならではの機能、つまり人間の体を究極に活かすための挑戦で、ある意味私にとっても最大の挑戦になります。
短・中・長距離走の選手にとっては、自分の体がギア(道具)になります。
そのギアをどう使いこなし、どんな走りをつくるか。
そのギアのどんな特性を活かすことがポイントになるのか。

2、活かしたいギアの特性:四駆の仕組み

少し話はそれますが、今回のオリンピックで、短・中・長距走の日本人選手の姿勢が良くなっている、そして体のバランスが変化していると感じました。
以前は世界レベルの大会になると、諸外国の選手に比べて日本人の姿勢や競技中のフォームで体の軸がぶれていたり、体全体のバランスを見た時に以前はもう少し足が太く見えていたような印象があります。
今は姿勢が良く、全身のバランスもきれいになっている。
今回のオリンピックを観戦し、長距離走の大迫選手は、体の軸がぶれない、足優位ではないとてもカッコいい走りだと思いました。そして、中距離走では女子の田中選手。体は小さくても同じく足優位ではなく体全身を使っての攻めの走り。
これは選手や関係者、各種専門家の皆さんの努力の賜物と思うと同時に、「ここに四駆のエンジンを入れたい」と強く感じたのです。

体のバランスが良く、前に進む、走るためには推進力が必要です。
その推進力をどこで生み出すのか、それがエンジンです。

体を前に推し進めるためには、どこかでパワーを生み出さなければなりません。その際に活用できるのが、ギア(人間の体)の四駆の仕組みです。

簡単に説明すると、「人間のお尻と背中の力は協調して働く」、つまり、「足を後ろに蹴りだすお尻の力と腕を後ろに引く背中の力は連動して力を発揮する」という仕組みです。

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「速く走るためにお尻を使う」という話は耳にしますが、「速く走るために背中を活かす」というのは、あまり耳にすることが無いような気がします。
昨今のトレーニングメソッドを見渡してみても、お尻(下半身)のトレーニングは多々目にしますが、背中(上半身)のトレーニングをメインに活用しているメソッドは少ないのではないでしょうか?
しかも、これら2つの力(お尻:下半身/背中:上半身)を協調させれば、体のエンジン機能はより効率よく、馬力・推進力を発揮します。
まず、この四駆のエンジンの仕組みが一つ目のポイントです。


3、推進力と腕の関係:前輪駆動

更に、四駆のエンジンを搭載しつつ、もう一つ活かせるポイントがあります。
それは「前輪の力」です。
前輪、つまり人間の腕の力を活用できます。

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この辺りをイメージしながら、野球のピッチャーの動きを思い浮かべてみましょう。
グローブをしている左手が前に出ている状態から、自分の体の方にグローブを引いてくる動きです。

その際に、
「① グローブを肩に引き付ける」ように動かす場合と
「② グローブを引きつけながら、左の肩甲骨を背骨に近づける」ようにした場合。

外から見ると一見同じような動作に見えますが、①の場合はグローブが肩に近づいただけで終わり、②の動きをすると、体の胸の辺りが左に向かって動くことがわかると思います。
その際に右の肩甲骨は、反対に背骨から離れるような動きをしますが、次にこの右の肩甲骨を背骨に近づけるような動きをすることで、走る際に腕の動きが生じるわけです。

②の動きで走る、そしてそれに必要な体づくりをすることで、腕で起こったこの動きは肋骨や体幹部、そして骨盤や股関節を介し下半身まで繋がる、つまり全身が連動して走る仕組みを活用することになります。
(そうすると、さらに体は自然と回旋します。体の回旋の仕組みも人間ならでは、二足歩行ならではの仕組みです。ここでも出ました回旋の話。また改めて別のnoteの記事を書きたいと思います。)


「足(後輪)で走る」のではなく、「腕(前輪)で駆動する」、足やお尻はその前輪駆動で生まれた力を活かして地面に伝え・地面を蹴る役割にシフトさせる。
そうすることで、今とはまた違う、新しい角度から走りを追求することができる。

陸上 体型イメージ

これは一つの考察ですが、今回の2020東京オリンピック・長距離走で優勝したエリウド・キャプチョゲ選手(ケニア)や、短距離走のキングであるウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)、彼らの体型は日本人に比べて逆三角形なイメージはありませんか??
ふくらはぎは細く、お尻がきゅっとあがり、たくましい上半身と太い幹のような体幹部。
もちろん民族的な背景から来る骨格の違いがあるので、一概にこのような体型を目指しましょうという話をしたいわけではなく、私はその人の体型はその人のパフォーマンス(運動)を反映しているものだと考えています。
日本人もこの前輪駆動のパフォーマンスを構築することで、体形にも変化が現れ、それが新しい走りへと進化しているサインの一つだと考えることができます。

また、同じ「走る」という競技でも、短距離走・中距離走・長距離走と走る距離が変われば搭載するエンジンの質(排気量≒求められるパワー)も変わってきます。
また別の機会にでも、種目ごとのエンジンの作り方の話もしてみたいところです。

そして、このように前輪駆動にすることのメリットのひとつは怪我を予防できること。
「走る」競技の場合、アキレス腱の痛みや足の甲やふくらはぎ周囲の疲労骨折、膝の痛みなどその怪我の多くは下半身(後輪)や腰に集中する傾向にありますが、前輪を活かし後輪への負担を軽減することで、多くの怪我を予防できます。
特に、中距離・短距離の場合は練習中から長い距離を走りこむことが多いので、下半身(後輪)の疲労から来る多くの怪我を回避することへも繋がります。
「怪我や痛み」は体からのサイン、「もっと違う使い方ができるよ」と教えてくれているはず。ギア(体)の特性を考慮し、ギアを使いこなすことが、パフォーマンス向上へのヒントになるのです。


4、 おわりに

短距離走は国内の代表選考会から9秒台の選手が揃ったハイレベルな争い、オリンピック本番では、中距離走・田中選手、3000m障害・三浦選手、長距離走・大迫選手に一山選手の入賞と、たくさんのレースを楽しませてもらいました。
その中でも、今回のレースでの引退を表明していた大迫選手が、インタビューの中で「次の世代の人が頑張れば絶対この6番手のここからメダル争いに絡めると思うので次は後輩たちの番だと思います」と述べていました。
皆さんのチャレンジから、さらに前進するためのひとつの材料になればと思い、今回の記事を書きました。
新たなパフォーマンスへのチャレンジは続きますね!

選手の皆さん、関係者の皆さん、素敵なパフォーマンスをありがとうございました。



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