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洞爺丸沈没 その6(全9話)

突然雨がやんで晴れ間が見えたため、函館は台風の眼に入ったかと思われました。大自然がもたらした偶然でした。

出港

18:20
洞爺丸の出航予定時刻が近づいた頃、岸壁を離れた大雪丸のあとへ石狩丸が入ってきましたが、波に翻弄され接岸する事ができずにいました。目の前にフラフラした船がいては出航する事ができず、洞爺丸は出航を待ちました。

18:40
石狩丸
がタグボートに押されてなんとか着岸する事ができ、入れ替わるようにして洞爺丸は汽笛を鳴らして出航しました。

18:45
エルネスト号
が再び走錨し始めました。
函館港内は青函連絡船を始め、台風から逃げてきた大小様々な船でごった返していました。

このままでは狭い湾内でいつ衝突が起こるかわからないと判断した、北見丸、第十一青函丸は港外に出て錨泊していました。

また、この日最後に青森を出航した貨物専用の十勝丸とかちまるは港内が混雑しているのを見て、貨車を積んだまま港外で錨泊びょうはくを開始しました。

この時点で青函航路上の連絡船は洞爺丸一隻だけになっていました。青森に二隻、函館に九隻の連絡船が待機していました。

猛威

19:01
洞爺丸
が防波堤を過ぎて港外に出たとたん、40mを超える強風に襲われました。

想像していた以上に台風の吹き返しが強かったため、近藤船長は即座に仮泊する事に決めました。船を風の吹いてくる南に向けると錨を下し、200mほど鎖を伸ばしました。
防波堤をわずか1300mほど過ぎたあたりの事でした。

港内を出たとたん40mの暴風と高波に襲われる

この頃強風のため、函館市内は全域が停電となりました。

19:10
札幌管区気象台午後7時発表。
「台風15号は午後6時、寿都の西50kmの海上にあり北北東へ進んでいます」981mb。

洞爺丸はやがて錨を支点にして、振り子のように左右に振られ始めましたが、そのうち走錨を始めました。
そのためエンジンを前進にして、錨に重量がかからないようにしました。しかし船が左右に振られているため、それに合わせて左右のスクリューを小刻みに動かし、なんとか真っすぐ進むように懸命の努力が続けられました。

これは踟躊ちちゅう航法と言って、波風と同じスピードで前進し、同じ場所にとどまるという荒天時に取られる航法です。

19:20
港外で投錨していた十勝丸は、車両甲板に海水が入り始めました。錨泊を止めて運転を再開しましたが、機械室にも車両甲板から水が入るようになりました。

19:30
エルネスト号は港の中心部に向かって走錨を続けていました。このままでは衝突を避けられないと判断した大雪丸は、錨を上げて港の外に出ようと移動を開始しました。

しかしその先には第六青函丸が停泊しており、そこにエルネスト号が迫っていました。

その間を抜けるように進んだ大雪丸ですが、第六青函丸の左舷に右舷をぶつけてしまいました。幸い航行には差し支えなく、大雪丸は港外で投錨しました。

第十二青函丸エルネスト号を避けようとし、なんとか交わしたものの操船がままならず港内をフラフラと流され始めました。

19:50
大雪丸
と入れ替わって第二岸壁に係留されていた石狩丸は、強風の為全てのもやい綱が火花とともに切断されていき、コントロールを失ったまま、港の中央へ向かって流され始めました。

強まる強風と波の中、全ての船が必死の戦いを続けていました。

その7につづく



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