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洞爺丸沈没 その3(全9話)

この時点で、台風は青森県か津軽海峡を横断してゆくだろうと想定されていました。近藤船長が函館から青森に行けると思ったのは、この台風の位置を考慮してのものになります。
ここで少し台風の特性について説明します。

可航半円

通常、低気圧や台風などで海が荒れた場合、船は風(波)の方に向かって進まなければなりません。横や後ろから大きな波を受けると非常に不安定になりますが、エンジンをかけて正面から進めば波も乗り越えて行くことができます。

また台風は、進行方向から見て右半分を危険半円、左半分を可航半円と呼びます。

進行方向の右半分は危険 左半分は穏やか

台風は反時計回りに猛烈な風が吹いています。台風の前に進もうとする力と反時計回りの風が合わさり、右半分はより風が強くなるのです。それに対して左半分は、風の向きと進もうとする力がぶつかり合って相殺されるため風は弱くなり、船も航行できるのです。その代わり左半分側の方が雨の量が多くなる傾向にあります。

皆さんの住んでいる地域に台風が接近してきた場合も、自分のいる場所が台風の右側にあるのか左側にあるのかで、上記の判断が可能ですので、覚えておくと役に立つかと思います。

話がそれましたが、もし台風15号が奥羽地方を横切るのであれば、船は可航半円側にいる事になり、波風もそれほど心配しなくて済みます。
また、北寄りに進路を取って危険半円側に船がいた場合、反時計回りの風は南から北へ吹きます。

つまり、青森へ向かうのは風に向かって進む事になるので、波風は強いですが乗り越えて行けるという事になり、近藤船長は14:00に出発すれば青森までは乗り切れると判断したのでした。

遅延

12:38
第六青函丸
が函館第四岸壁を出航しました。

12:47
第六青函丸
は港を出たところで、この波では青森へ向かうのは難しいと判断し、函館港内へ引き返しました。

13:20
第十一青函丸
が青森へ向けて函館を出航しました。
この頃風が強まり、函館の港内では18mの風が吹いていました。

13:27
大間崎航路標識事務所船舶気象通報
「津軽海峡は東の風22m、雨、視界6km、波浪6、うねり6」

これを受信した頃、第十一青函丸は港内を出て外海へ出ようとしていました。この船には50数人の米軍兵と家族が乗っていました。彼らは除隊して帰国する為に東京へ向かうのです。

そのため、米軍専用の寝台車や荷物車も積まれていました。

13:53
外海へ出たとたんに船は左右に揺れ始め、船長は引き返す決心をしました。第十一青函丸は貨物を中心に積む船で、洞爺丸よりも小型です。貨車を満載しているため重心も高く、このシケでは危ないと判断したのです。

函館の指令室では、引き返す旨の連絡を受け、乗客は洞爺丸移乗させると返信しました。

函館港 下の赤丸が函館桟橋2面しか無い 上の赤丸が有川桟橋で貨物用

14:40
洞爺丸
出航の定刻ですが、まだ第十一青函丸が到着していません。

台風とぶつかる前に陸奥湾に逃げ込みたいので一刻も早く出発したいところですが、乗客を移乗させるため到着を待ちます。

この頃青森を10:00に出発した大雪丸が函館に到着しました。しかし函館の岸壁は2隻分しか空きがありませんので、第十一青函丸の人や車両を洞爺丸に移した後、入れ替わりで着岸するしかありません。

大雪丸は防波堤の外で錨を下して待機しました。

14:48
第十一青函丸
が第二岸壁に着岸。176人の乗客全てが洞爺丸に移乗しました。早く台風が来る前に出航したいところですが、米軍兵たちを乗せる寝台車や荷物車も積み替える必要がありました。

その4へつづく



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