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白い地獄 その5

露営地

●4日目(1/26)
第二露営地で夜を明かした神成大尉は、生き残った数名で田茂木野方面へ向かいました。
その途中、部隊からはぐれていた後藤伍長が加わります。
第三露営地で夜を明かした山口少佐の集団は北へ向かいました。
地図でもわかるように、第三露営地から北へ向かうと急な傾斜を下り、川へぶつかります。
その後川沿いに川を下りますが、滝に行き当たり進退窮まり停滞しました。
崖下の風を受けにくい場所で、背嚢を焚いて暖を取るなどして、行動を停止しました。

一方神成大尉の一行は、非常にゆっくりとした歩みながらも、山口少佐たちの第三露営地の跡を越え、田茂木野方面へ少しずつ進んでいました。
一緒にいた者たちは次々に落伍し、最後は後藤伍長と二人だけになりました。
そして田茂木野村まであと4kmほどのところで二人とも動けなくなり、そのまま夜を明かしました。

〇31連隊
三本木から9kmほど離れた増沢村は戸数4,5件の小さな集落です。
この日はここに泊まり、そこから先は7人の案内人をつけて、5連隊とは逆の方向から田代新湯を目指しました。
この案内人の件については後述します。

●5日目(1/27)
朝8時頃、神成大尉は後藤伍長に命令します。
「後藤伍長は伝令となり田茂木野村へ進出し、このことを村民に伝えよ。自分はもう歩くことはできないので、このまま舌を噛んで自決する」
後藤伍長は凍傷で殆ど歩くことができなくなっていましたが、100mほど前進しそこで立ったまま動けなくなります。
11時頃、前方に人影らしきものが見えましたが声が出ません。またこれまでもたびたび救助隊が来る幻覚を見ていましたので、今回もそうかもしれないと思っているうちに、意識を失いました。

しばらくして救助隊が雪の中に凍ったまま立っている後藤伍長を発見しました。
救助隊が声を掛けると意識を取り戻し、近くに神成大尉がいる事を伝えます。
救助隊が探すと、100m離れた場所で神成大尉が倒れているのを発見しました。軍医が神成大尉にカンフルを腕に注射しようとしますが、全身が凍り付いており針が折れてしまいました。
やむを得ず口の中に注射しますが、息を吹き返すことはありませんでした。
また近くから及川伍長の遺体も発見されました。

救助隊員の中にも凍傷患者が出ており、このままでは二次遭難が発生するため、遺体はそのままにして、後藤伍長だけを連れて田茂木野村へ引き返しました。
そこから救助隊長の三上少尉が5連隊の屯営まで走り、19時40分頃連隊長へ雪中行軍隊遭難の一方を告げます。さらには、救助隊の半数は凍傷になった事も報告します。
この報告を受けて5連隊本部は蜂の巣をつついたような騒ぎになりました。
しかしこの時三上少尉は、後藤伍長のみが生存と報告してしまったがために、この後の捜索が遅れる事になります。

ルート

〇31連隊
朝6時30分頃に増沢村を出発しました。田代新湯を目指して道なき道を進みますが、わきの下まで潜るほどの柔らかい雪の為、100m進むのに30分かかるという有様で、寒さと猛烈な吹雪で、隊員にも凍傷にかかるものが増えてきました。

やがて21時頃部隊は一時停止します。雪で風よけを作り小休止しますが、この後、指揮官福島大尉は信じられない指示を案内人たちに出します。
「5名は持ち物をここに置き、田代新湯へ向かい主人を連れてこい」と。
つまり、逃げ出さないよう2名を人質に取ったのです。そして方向もわからないような状況で、何の装備も無い案内人を田代新湯へ向かわせたのです。
さらに田代新湯へたどり着いたとして、主人がこの天候の中ここまで無事に来れる保証もありません。
それを民間人に平然と命じたのです。5名の案内人はどうする事もできず、田代新湯へ向かいました。

しかしたどり着くことができず、雪の中に埋もれた小屋を発見し、その中に命からがら逃げ込み、火を起こして暖を取る事に成功しました。
人心地がついた彼らは、田代には案内できないがせめてここまで部隊を案内して皆に暖を取らせようと相談し、引き返しました。

つづく

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