見出し画像

うつわペルシュの、つくり手を訪ねて【作手窯】Story3:薪窯編

全3回にわたってお届けしている、「作手窯(つくでがま)」鈴木健史さんの特別インタビュー。

展示編、工房編に続き、最終話となる今回は「Story3:薪窯編」。

作手窯の器に「火の神が宿る」と称される理由とは?

失敗しても、もっと追求したくなる―健史さんが魅せられた、薪窯の世界に迫ります。

取材・文:中西沙織  撮影:こんどうみか (ほとりworks

→Story1:展示編

→Story2:工房編


土を生かすことを考えたら「薪窯」にたどりついた

画像1


作手窯の作品に欠かせないのが、焼き上げの工程。さまざまなタイプの窯がある中、健史さんがこだわるのが薪窯です。

健史さん:「自分のように、20代から薪窯をやる人は、少ないんじゃないかな。どれがいい悪いというわけではないんです。たとえば電気窯の強みは、完璧な酸化(酸素が満ち足りている状態)で焚けるので、釉薬の発色がきれいなんです。温度が一定なので、焼きムラもほぼない。作家が意図したように、つくりやすい窯と言えます。ただし、裏を返すと、土の表情を出すためには、作家のほうから変化を加えてあげないといけない。

一方で薪窯の場合は、薪が入ることによって作品に炎があたり、窯の中で複雑な温度変化が起きる。灰が飛び、付着することによって、鉄分等のさまざまな成分が釉薬に溶け込み、変化をもたらしてくれる。そこが一番の魅力です」

画像2

工房と同じく、健史さん自ら築窯した「穴窯」

驚いたのが、同じ土を使い、同じ釉薬をかけても、焼き上がりの見た目が異なるという点。それがよく分かるのが、ペルシュでも人気の板皿です。

画像3

四角く平らな、シンプルな形状だからこそ、微妙な色合いや模様の出方で印象が変わります

健史さん:「たとえば、少し青みがかって見えるものと、白っぽいもの。どちらも、透明の釉薬をかけて焼いたものです。

健史さん:火に近いほうは灰がたくさんかかるので、灰に含まれる成分が釉薬に入り込み、青みがかった色になります。反対に、火から遠いほうは灰の影響がほとんどないため、釉薬は透明のまま、白っぽく焼き上がります。いろんな表情が出せる、というと聞こえはいいのですが、コントロール不可というか、ほぼ制御不能というか…」

画像4

器の端には、釉薬をかける際に掴んだ指の跡が

同じ窯の中でも、手前と奥で100℃ほどの温度差があると言います。釉薬が溶ける温度や、土によって耐火度も異なるため、焼き上げの際に置く場所を想定した上で、使う土や釉薬を決めているそう。


作品の仕上げは、火の神に託す

画像5


窯に薪を入れ、火を焚いて作品を焼き上げることを「窯焚き」と呼びます。この窯焚きを行うのは、年に3回か、多くても4回と、限られた機会のみ。

ペルシュ:「窯から炎が上がる様子を写真で拝見しましたが、とても迫力がありますね!」

健史さん:「3日間にわたり、50時間ほどかけて行います。温度管理が重要で、酸素を送り込むため、窯の手前のレンガを外して空気を送り調整するのですが、これがなかなか難しくて。最後は、火に託すような部分もあります」

人のコントロールが及ばない、薪窯の世界。「作手窯」の器が、「火の神が宿る」と称されるゆえんです。

画像6

窯焚きに使う薪。山から丸太を担いできて、薪を割ってストックしておく

一回の窯焚きで焼けるのは500点ほど。失敗も多く、作品として世に出せるのは、そのうち60%だと言います。

健史さん:「数か月分の仕事が形になるかどうかが、この窯焚きで決まります。へこむこともありますが、反対に、自分の想像を超えた作品が生まれることもある。楽しみも大きいですね」

画像7

健史さん一家とともに、のびのびとした環境で過ごす愛犬フォース


工房訪問を終えて

作品はもちろん、作家さんも、生き方も、すべてが「作手窯」の魅力! ―そんな、ペルシュ・佳子さんのひとことから始まった、今回の工房訪問企画。いかがでしたか?

お話を伺う中で、自ら体験したからこそ出てくる「まっすぐで、ごまかしのない言葉」がとても印象的でした。素朴でいて、同時に、力強く、ゆるぎない意思がある。それが、作品にとてもよく表れているなあ、とも。

訪問を快くお引き受けいただいた鈴木健史さん、ありがとうございました!

「作手窯」の作品は、ペルシュで常設販売されています。常設でここまで充実した品ぞろえは、他ではなかなか見られません。オンラインショップ、または店頭にて、ぜひチェックしてみてください。

※内容は2022年1月時点の情報です。撮影時のみマスクを外しています

【つくり手Profile】
「作手窯」鈴木健史さん
茨城県出身。高校時代に出会った陶芸家の生き方に憧れ、卒業後は沖縄の工房で経験を積む。その後、愛知県新城市の作手地区に拠点を移し、工房と薪窯は自らの手で造り上げた。足で回す「蹴(け)ろくろ」と、山から採取した土を使って、土の持ち味を生かした作品づくりを追及。「火の神が宿る」と称される薪窯の器は、プロの料理人からも支持を集める。Instagram @tsukudegama


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?