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宇宙スタートアップ企業の片隅から

2019-11月号SPACE ONEロゴ画像

はじめまして。加持と申します。

メルマガの寄稿は初体験です。この度はこういった機会を頂きありがとうございます。

数か月前、ある宇宙関係の懇親会で梅崎さんに依頼され、つい了解してしまいました。師走は忘年会が続きます。皆様、くれぐれもお酒にお気を付けて下さい(笑)

さて、テーマは、宇宙スタートアップ企業の片隅からとしました。

加持は現在、スペースワンという会社で働いています。スペースワンは、小型ロケットに宇宙輸送サービスの事業化を目指し、去年の7月に発足しました。いわゆる、宇宙スタートアップ企業です。

今回は簡単にスペースワンがどんな会社で、何を目指しているのかを、個人的な考えとあわせてお伝えしたいと思います。

設立の背景は小型衛星への潮流

当社は、昨年7月にキヤノン電子、IHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行の出資により設立された異業種協働のスタートアップ企業です。

キヤノン電子は民生品の生産実績を活かした低コスト化技術、IHIエアロスペースはイプシロンロケットはじめ、長年、固体ロケットを開発してきたロケットシステム技術、清水建設は地上インフラに関する圧倒的な強み、日本政策投資銀行はエクイティファイナンスに関する知見があります。各社がそれぞれ実績を持つ強みを活かした異業種連合が当社の特徴です。

なぜスペースワンは設立されたのか?

世界で小型ロケットのスタートアップは100社以上立ち上がっていると言われています。

例えば、すでに9回の打上げを行っている米ロケットラボ、飛行機からの空中発射を行う米ヴァージン・オービット、インド宇宙機関が開発するSSLVロケット、スペインのPLDスペース、中国のiSpaceやOneSpace、日本では北海道を拠点としたインターステラテクノロジズ様など、既にサービスイン、または今後数年以内のサービスインを目指し、多数の企業が活発に活動しています。僭越ですが、スペースワンもこの中の一社です。

設立の背景として、キーワードが2つあります。

一つ目は小型衛星です。小型衛星の需要が高まってきています。今後の10年で4倍に伸びるとも予想されています。
従来、人工衛星は数トンの重さのものが主流でした。他方、電子部品の小型化・高性能化により、小型衛星の機能が格段に向上してきました。大きい衛星は依然、より質の高い大きな仕事ができます。一方で、何十、何百、何千という小型の衛星を宇宙空間に配備して、一体的に運用する、いわゆるコンステレーション計画が技術的、コスト的に可能になってきました。

二つ目は小型ロケットです。増加する小型衛星を軌道に運ぶ手段が必要になります。
現在のロケットの大半は、大型の衛星を打上げる大型のロケットです。結果、小型衛星の打上げはどうしても相乗り打上げになってしまいます。小型衛星によるビジネスを行ううえで、望むタイミングで、望む軌道に投入することが重要です。現状の大型ロケットを使った相乗り打上げは、小型衛星にとって使い勝手が良いとは言い難いところがあります。

小型ロケットにより、お客様の小型衛星を望むタイミング、望む軌道へ機動的に運ぶことが求められています。スペースワンはこの市場環境をビジネスチャンスと捉え、設立されました。


スペースワンの宇宙輸送サービス

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スペースワンの小型ロケット(イメージ)


スペースワンのサービスは、専用のロケット打上げ射場と小型ロケットによる宇宙輸送サービスの提供です。

専用射場として今年4月から和歌山県串本町に射場を建設中です。2021年に完工予定です。

ロケット機体の構成は、固体燃料3段と最上段に軌道変更用液体燃料エンジン(Post Boost Stage)を搭載しています。いわゆる、固体燃料ロケットです。

打上げ能力は、高度500kmの太陽同期軌道で150kg、軌道傾斜系射角33度の低軌道で250kgです。余談ですが、H2Aケットは太陽同期軌道で約3300kg、イプシロンロケットは約600kgの打上げ能力を持ちます。

サービスの特徴は4つあります。

一つ目は信頼性です。スペースワンは、実績のある企業の連携による長期的な観点での経営安定性を背景に、日本が長年に渡り蓄積してきた固体ロケット技術を継承・活用します。高い技術力と信頼性により確実で質の高い打上げサービスを提供します。

二つ目は即応性です。スペースワンは契約から打上げまで「世界最短時間」を目指します。また、射場における衛星受領から4日後に打上げ、固体ロケットの特性を生かした世界最速の即応ロケットを目指します。

三つ目は柔軟性です。南方・東方に開けた立地を活かした専用射場により、お客様が希望するタイミングで、多様な衛星を打上げる柔軟な宇宙輸送サービスを提供します。

四つ目は低コストです。固体ロケットは構造や運用がシンプル。民生部品の活用とあわせて、低コストでの宇宙輸送サービスを提供します。

現在、和歌山県串本町の自社射場から2021年度中に初号機を打上げるため、鋭意開発を進めているところです。

宇宙は地上との競争

スペースワンのスローガンは、Launch Your Space Businessです。

小型ロケットによる衛星打上げのマーケットはまだ黎明期です。みんなで切磋琢磨し、新しい宇宙ビジネスを創出していければと考えています。

小型ロケットによる優れた宇宙輸送サービスが複数生まれることで、小型ロケットを使った小型衛星のサービスがもっと生まれてくるはずです。それが小型ロケットの需要の増加に繋がり、更なるサービスの向上につながるような、良いスパイラルに入っていくことが大事だと思っています。

個人的な意見ですが、もう少し視野を広くとると、宇宙利用は絶えず、地上のインフラとの競争にさらされています。

宇宙を使ったほうが効率的、或いは宇宙でしかできないもので、はじめて宇宙利用は成立します。地上インフラのほうが優位であれば、宇宙利用は先細って行きます。実際、地球の裏側からの生中継は、人工衛星ではなく、地上の光ケーブルになっています。ロケット、衛星、衛星によるサービスといった宇宙利用のバリューチェーン全体で、競争力を高めていくことが重要です。

宇宙業界のなかでの競争、地上インフラとの競争、それらが地上の生活の更なる向上につながることを信じて、優れた宇宙輸送サービスの実現を目指していきたいと思います。

当社のサービスにご興味があれば、是非お声掛け下さい。


SPACE ONE加持勇介プロフ画像

加持勇介:2005年JAXA入社 2018年よりスペースワン勤務


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