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宇宙小話(4)〜日本の惑星探査の世界での立ち位置

最近は「日本の〇〇が世界に絶賛(ぜっさん)された!」と自画自賛(じがじさん)する話をよく目にしますが、多くは誇張(こちょう)が入っています。

しかし、はやぶさは決して誇張ではありません。アメリカの独断場(どくだんば)である惑星探査(わくせいたんさ)において、世界ではじめて小惑星(しょうわくせい)からのサンプルリターンを成功させた功績(こうせき)は強い存在感を放っています。

もちろん、一般(いっぱん)のアメリカ国民で「はやぶさ」や「はやぶさ2」を知っている人は少ないでしょう。でもそれは、ほとんどの日本人がオシリス・レックスを知らないのと同じ。

でも、僕が働いているNASAジェット推進研究所(すいしんけんきゅうじょ)ではほとんどの人が”Hayabusa”の名を知っているでしょうし、今回のはやぶさ2の帰還(きかん)も多くのNASA職員(しょくいん)が手に汗にぎって見ていたと思います。

無人の探査機(たんさき)で太陽系の惑星の謎を解く惑星探査は、様々な国が行っていますが、やはりアメリカの存在感(そんざいかん)が圧倒的(あっとうてき)です。

世界ではじめて金星、火星、水星へ到達(とうたつ)したマリナー・シリーズ、世界ではじめて天王星・海王星や星間空間に到達したボイジャー、世界ではじめて火星に着陸したバイキングなど、科学的成果のみならず、人々の記憶に強く残っているミッションの多くはアメリカによるものです。

数少ない例外はソ連による金星探査でしょうか。ソ連は金星への着陸を10回も成功させました。金星への着陸ミッションを行なった国は他にはありません。

理由はひとえに、お金です。NASAによる惑星探査の予算が、他の国を抜きん出ているからです。2020年度にNASAが科学探査(宇宙望遠鏡なども含む)に使ったお金はだいたい70億ドル(約7000億円)です。

一方、日本で科学探査を行う宇宙科学研究所(ISAS)の年間予算はだいたい200億円弱です。つまり、NASAは1年でJAXAの35年分のお金を使っているのです。その分、より複雑な宇宙探査機を、たくさん飛ばすことができます。

他の要因(よういん)もあります。日本は、おそらく政治的な理由で、RTGという電池を使えません。

RTGとはプルトニウムの自然崩壊(しぜんほうかい、連鎖反応を伴わない、じわじわと出る熱)を使って発電する電池です。木星より遠くでは太陽が暗くて太陽電池を使えないので、RTGが必須(ひっす)になります。

そんなハンデキャップを背負いながらも、JAXAのISASはキラリと光るユニークなミッションを多くこなしてきました。

ISASの方たちは「アメリカになんて負けないぞ」という良い意味での反骨心(はんこつしん)を持っている人が多く、少ない予算で、決してアメリカの二番煎じ(にばんせんじ)ではない、科学的に重要なニッチを貪欲(どんよく)に狙っています。

「はやぶさ」がその最たるものです。世界初の小惑星サンプルリターンの成功の最大の要因は、イオンエンジンを世界に先駆けて惑星間航行(わくせいかんこうこう)に使用したことです。

世界に先駆けた技術への投資と、アメリカの狙わないニッチを狙う姿勢が産んだ成功でした。

この先も楽しみなミッションが目白押しです。火星の小さな衛星(えいせい)フォボスからのサンプルリターンを狙うMMXは、まだ世界のどこも成功していないユニークなミッションです。現在、ヨーロッパと共同で行なっている「ベピ・コロンボ」という探査機が水星に向かっています。水星はまだ2回しか探査機が訪れたことのない、謎の多い惑星です。

外惑星では、アメリカが木星の衛星・エウロパの探査に注力する中、ヨーロッパがJUICEという探査機を他の木星の衛星、ガリレオやカリストに向かわせる予定で、日本もこれに参加しています。

このように、日本のISASによる惑星探査は、アメリカの35分の1の予算しかない中で、ブレない戦略(せんりゃく)を持ち、世界に存在感のあるミッションを行なっていると思います。

アメリカの二番煎じではなくユニークなニッチを狙う、そして他の国と協力する。この勝ちパターンは、惑星探査以外にも通じるのではないか、とも思います。

(画像:JAXA)


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