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「宇宙産業」という言葉をなくしたい

アクセルスペースCEO 中村友哉さんインタビュー 後編

超小型衛星のフロントランナー、アクセルスペースのCEOである中村友哉さんと、NASAジェット推進研究所の小野雅浩さんは、実は大学時代の先輩・後輩の間柄。4月号に掲載されたインタビュー記事前編では、手作り人工衛星プロジェクトに没頭した大学から、中村さんがアクセルスペースを起業し初人工衛星の打ち上げに成功するまでの経緯を紹介しました。後編の今回は、その後に経験した困難から、資金調達、毎日全球観測サービス・AxelGlobeの立ち上げ、そして今後の展望を語ってもらいます!

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中村さんと僕は、JPLのクリーンルームやオペレーションルームを回った後、屋外のイスに腰掛け晴れたカリフォルニアの青空の下で話を続けた。

アクセルスペースがウェザーニューズのために開発した最初の衛星、WNISAT-1が宇宙へ飛び立ったのは、創業から5年経った2013年だった。民間が所有する商用超小型衛星としては世界初で、ニュースでも大きく取り上げられた。

これで誰も文句の付けようのない実績ができた。だから新しい顧客がこれからどんどん付くだろう。そう思って様々な会社に再び営業をかけたのだが、現実は甘くはなかった。

「『そりゃ、ウェザーニューズさんだからねぇ』って言われて、また門前払いよ。」

ウェザーニューズがトップダウンでリスクテイキングな事業に挑戦することは、よく知られたことだった。うちではそのリスクは取れません、と言われておしまいだった。

「数百億円した人工衛星を数億円にまでコストダウンしたのは、俺ら的にはすごいことだったんだけどさ、やっぱり打ち上げまで数年かかるし、打ち上げが失敗するかもしれないし、そんなリスクをとって数億円の人工衛星を自社所有しようなんていう会社は、そうそうなかったんだよね。」

中村さんはこう分析する。日本企業の多くはトップダウン型の経営ではなく、ヒエラルキーが強い。だから、直接話をする担当者がたとえ面白いと思ってくれても、その上にいるマネージャーがリスクをとる決断を下せないのだ。

営業が行き詰まりを見せていた2015 年頃、中村さんたちは別の方向の模索を始めた。

「衛星が売れないなら、代わりにサービスを売るしかない」と。

つまりこういうことだ。今までアクセルスペースは、他の会社に衛星を売るビジネスだった。そして衛星を買った会社が、天気予報や通信、放送などの「サービス」を、僕たちのような一般の消費者に売る。

新たなアイデアはこうだ。アクセルスペースは自分の会社のための衛星を作って、打ち上げる。衛星は誰にも売らない。そしてアクセルスペース自身が衛星を使い、サービスをユーザに直接売るのだ。

では、一体何のサービスを売るのか?

衛星画像である。数十機の小型衛星からなるネットワークを宇宙に構築し、世界中を毎日撮影できるようにする。顧客の求めに応じて画像を提供し、場合によっては画像解析まで請け負う。こうしたデータは、農業、林業、水産業、地図作成、災害監視など、様々な利用が見込める。まさに新時代のインフラである。

このサービスは「AxelGlobe」と名付けられた。

顧客には画像データを買ってもらうだけだ。もう、「◯億円で衛星作りませんか」という無謀な営業活動をする必要はない。

だが、自社で衛星を持つのだから、そのためのお金がいる。それも今までにない莫大な額がいる。なんといったって、数十機もの衛星を打ち上げるのだから。

では、誰がそんなに大きな額を投資してくれるのか?

日本にももちろん、ベンチャー会社を対象とした投資会社、つまりベンチャーキャピタル(VC)は多くあった。だが2015年当時、日本のVCの殆どは、IT企業やゲーム会社などを対象とした、短期間・少額の投資しか経験がなかった。一体、宇宙ベンチャーなどに投資してくれるVCはあるのだろうか?

助け舟を出してくれた人がいた。Global BrainというVCの青木英剛さん。投資家になる前は三菱電機にエンジニアで、JAXAの「こうのとり」の開発に携わった経験を持つ。宇宙開発を現場から知っている彼が、アクセルスペースのAxelGlobeに興味を持ってくれた。真っ先に投資を決め、そして他の投資会社への説得もサポート、最終的に19億円に及ぶシリーズA投資の成功に繋がった。

2018年12月27日。Axel Globeの最初の衛星・GRUS-1Aが、ソユーズ・ロケットに乗って地球を旅立った。ロケットは正常に飛行してGRUS-1Aを分離し、間も無く衛星が正常に動作していることが確認された。

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GRUS-1衛星。写真提供:アクセルスペース

この時が、アクセルスペースを始めて以来最良の瞬間だったと、中村さんは振り返る。

「ようやくAxelGlobeが始まる」

そんな感慨があったそうだ。

この成功を受けて、2019年5月31日、AxelGlobeのサービスが正式に開始された。誰でもAxelGlobeのホームページを通して、地球上の好きな場所の衛星画像を購入することができる。

GRUS-1Aの打ち上げ直前には、25.8億円のシリーズB投資を受けることも決まった。2020年にはさらに3機のGRUS衛星がAxelGlobeに加わる。

昨今は日本にも宇宙ベンチャーが増え、話題ばかりが先行する会社、話題以外は何もない会社も多いが、アクセルスペースは日本でもっとも堅実に実績を積み上げている宇宙ベンチャーだろう。その裏には、言わずもがな、長期間にわたる忍耐強い努力があったのである。

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GRUS-1Aの「ファーストライト」画像。写真提供:アクセルスペース

それにしても、と思う。中村さんと僕は同じ「宇宙」に携わっているのに、こうも違うのか、と。同じなのは「宇宙で何かしている」、ここまで。衛星や探査機の目的も、行き先も、顧客の種類も、サイズも、コストも、搭載機器も、全て違う。組織の種類も違えば人のモチベーションの源泉も違う。完全な異業種と言って良い。

「これからは『宇宙産業』という言葉が意味を成さなくなると思うんだよね。」

中村さんは言う。その通りだと思う。たとえば、漁師も造船会社もサーファーも「海で何かしている」というだけで同業種になったりはしない。今はまだ人類の文明活動の殆どが、小さい小さい地球の中に留まっているが故に、てんで異なる異業種も「宇宙産業」と一括りにされているだけ。アクセルスペースのような会社が増え、宇宙がもっと身近になれば、自然と「宇宙産業」という言葉も消えていくだろう。

AxelGlobeの世界展開が次のステップと語る中村さん。

「現在はあらゆる産業が宇宙に繋がりつつある過渡期にある。ただ単に宇宙を『楽しむ』だけではなく、アクセルスペースが拡げる宇宙の価値をうまく使ってビジネスに繋げていってほしい」

という言葉で、インタビューを締めてくれた。

JPL訪問後は、ロサンゼルスのとある宇宙企業の社長さんとのディナーがあるとのことで、足早に去っていった。僕もオフィスに戻り、火星ローバーやエウロパランダーの仕事を続けた。同じ「宇宙業界」にいながら、中村さんと僕が一緒に仕事をすることはないかもしれない、と思った。この隔たりの幅が即ち、宇宙というものの広さ大きさを表しているのだと思う。

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