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つくば市に科学版のディズニーランド!?宇宙観光プロジェクト構想

~茨城を若手で魅力のある県に。茨城から日本の科学技術を盛り上げる~

宇宙開発の動向

アポロ11号の月面着陸から50年が経った現在、世界の宇宙開発は新たな局面を迎えている。これまで、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)やアメリカ航空宇宙局(以下、NASA)などの国家を中心とした宇宙開発が一般的であった。それが、民間のスタートアップなどが中心となって宇宙開発をビジネスとして進める、New Spaceと呼ばれる動きが盛んとなっている。

筆者は、民間発の月面探査を目指す(株)ispace(アイスペース。以下、ispace)にてエンジニアとして月面で水資源を探査する月面探査車(以下、ローバー)の開発を行っている。月には数十億トンの水資源が存在するといわれており、水素と酸素にわけることができることから、将来の宇宙での重要なエネルギー源となる。同社では、2022年に最初の月着陸を行うHAKUTO-Rを進めている。

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(株)ispaceが進める月面探査プロジェクトHAKUTO-R
出展:(株)ispace

科学コミュニケーションの重要性

宇宙産業は前述のように盛り上がりつつあるが、特に日本においてはそれらに対する国民的な理解が低く、将来への投資があまりされていない。例えば、JAXAの年間予算額が3,000億円に対して、NASAでは4.5兆円と15倍もの差がある。ispaceにおいても、会社設立当初は宇宙ビジネスに対する理解が得られず、投資家からの資金調達やエンジニアの確保に苦労をしていたと聞く。これは、国力だけでなく、日本国全体で科学技術に対する理解が得られていない結果であり、将来の豊な日本を創るために、さらなる国民の理解が必要である。

科学技術に対する国民の理解を得るためには、科学技術の発信が必要であり、「科学技術コミュニケーション」と呼ばれる活動が重要である。特に職業的な科学者が主体となる「アウトリーチ活動」や「科学技術普及活動」が科学技術の知識や意義を正しく伝えるうえで重要とされている。日本では、文部科学省を主体として、子どもたちの理科教育の強化や、若い世代の理科離れや理工系離れへの対策に力が入れられているが、まだまだ国民全体の大きな理解を得るにはいたらず、民間を巻き込んだ大きな動きが必要である。

amulapoが宇宙開発を促進させる

筆者は大学の博士課程での研究やispaceでの開発を通してこれらの社会課題を感じていた。そんなとき、大学の先生からあるアイディアコンテストを紹介された。日本HP社が進めるHP Mars Home Planetという国際的なコンテストで、100万人が火星に暮らす都市をデザインするという内容である。日本では学生リーグProject Marsとして全国から100チームほどが参加した。筆者は、チームの代表として当時一緒に活動をしていた、ispaceのインターン生や研究室の後輩と出場し、最終的には都内の高校生とも連携し、最優秀賞を受賞した。その中で学んだバーチャルリアリティ(VR)の技術の可能性や宇宙分野との相性の良さを感じ取り、当時のチームメンバーに起業の話を持ち掛け(同)Yspace(ワイスペース)を創立した。2020年3月には、事業の内容や規模を拡張させるために(同)Yspaceの代表を辞任し (株)amulapo(アミュラポ、以下amulapo)を創業し、代表として宇宙体験コンテンツの制作の事業に従事している。

amulapoではバーチャルリアリティなどの3次元可視化技術(xR技術)やロボット、AI等のICT技術を利用し、非専門家にたいして宇宙を体験していただける機会を創造し、宇宙産業の促進に向けた事業を進めている。先端のICT技術を用いることで、より臨場感のある宇宙体験を届けることが可能であり、多くの人に宇宙を感じていただくことができる。コンテンツの制作には、xR技術による映像等の可視化だけでなく、実際に宇宙で取得された衛星データを解析して3次元空間上に再現したりロボットやAIの技術を用いてコンテンツのシステム化、自動化を行う。そのような意味で幅広いICT技術の理解が重要である。amulapoには、様々なICT技術を専門にする研究者・技術者が集まり、技術者集団として宇宙体験コンテンツの開発に挑んでいる。また、多くの大学生・大学院生が技術やビジネスを学びに参画しており、会社内で宇宙ビジネスを進める専門家コミュニティが形成されている点も面白い。

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amulapoの進める宇宙コンテンツ制作事業

amulapoが考える社会課題の解決

amulapoでは、宇宙をはじめとする科学技術全体の促進を目指している。そこには、日本の科学技術力低下という社会課題を解決したいという想いがある。世界における日本の科学技術の評価指標として基礎研究の体力測定に役立つ学術論文の動向を探ってみると、ここ数年のランキングの低下は著しく、2004年~06年には平均の論文数が2位、被引用数トップ10%論文数が4位であったものに対し、2014~2016年ではそれぞれ、4位、9位と著しい低下がみられる。また、博士号取得を目指して大学院博士課程に入学する学生数は、2003年の1.8万人から続けて減少傾向であり、2016年には1.5万人まで減少している。博士号取得者数の人口割合として主要国で減少しているのは日本だけである。これは何を意味するかというと、科学技術の研究成果が社会実装する10年後、20年後の未来では日本は豊かでなくなるということである。

この課題を解決するためには、日本にて科学技術を育成させる仕組みづくりが必要である。日本国は決して科学技術の能力で劣っているわけではないが、その発信や社会実装に弱い。そのため、社会的な認知、理解が低くなり科学技術に対して投資がされにくいという悪循環が生まれている。この悪循環を正の循環に変える必要がある。amulapoでは、科学技術を常用的に発信できる仕組み、研究者人材育成のための研究者優遇のための仕組み、地域の若手に対する先端教育に対する教育格差の解消が必要と考え、様々な事業を展開している。その中で、科学技術の発信として、xR等のICT技術を利用した宇宙体験コンテンツの開発は重要であり、つくば市にも拠点を設けながら開発を進めている。つくば市内の各科学館や研究機関、宿泊施設などに宇宙を体験できる仕組みを設け、つくばにきたら宇宙を体験できるという総合エンターテインメント型のテーマパーク構想を掲げ、その構想を進めている。

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amulapoが進める宇宙観光プロジェクト構想

つくば宇宙観光プロジェクト

事業を進める中で、茨城県での観光業における課題も見えてきた。茨城県は、都心からのアクセスこそ良く便利なものの、逆にその近さが都内への帰宅を促してしまい、宿泊せずに都心へ帰ってしまう。これにより観光消費額が低下し、県全体で思うような観光収入が得られていない。また、魅力的なコンテンツが少なく、PRやブランディングも弱い。ブランド総合研究所(東京)による「地域ブランド調査」では、茨城は都道府県の魅力度ランキングで7年連続最下位の47位である。県庁も大井川知事が進める営業戦略部にて観光誘客に向けたPR戦略を進めてきているが、その効果が形として現れるまでに時間を要している。そこで、amulapoでは宇宙体験のコンテンツを開発するノウハウを活かし、つくば市に科学版のディズニーランドとなる、科学技術を観光資源とした新しい形のテーマパークを創る宇宙観光プロジェクトの構想を立ち上げた。これにより、茨城県を盛り上げ日本の科学技術の促進に貢献することができる。

宇宙観光プロジェクトは、宇宙体験を中心としたアミューズメントの仕組みを、つくば市にある既存の研究機関科学館、飲食店、ホテル、街中に導入していくものである。宇宙産業と最新のICT技術を融合させ、デジタルコンテンツを中心に各拠点を宇宙でブランディングし、つくばで宇宙旅行が体験できるという体験の仕組みを創出していく。これによって、非専門家も宇宙を中心とした科学技術に気軽に触れることが可能となり、徐々に技術開発の理解を促すことができる。また、研究成果などの先端技術を体験できる場として観光客には未来を提供でき、研究者としては先端技術をより早く社会に実装させるための実証実験の場として利用できる。

関東の第3の空港でもある茨城空港も2040年に向けた訪日観光客の増加の予測からアジアを中心とした観光客の利用が増える可能性が高い。その中で、つくばエクスプレスの東京駅から茨城空港までの延伸構想もあり、中間地点となるつくば市でのインバウンドによる観光収益も大きく見込むことができる。2021年に向けてつくば駅近くのエキスポセンターや駅前のホテルを利用した実証も進める予定である。今後の活動に注目していただけると嬉しい。

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(株)amulapoのメンバー



2020-8月号-田中克明様プロフィール画像

田中克明(たなかかつあき)

宇宙ロボットの専門、博士(工学)。(株)amulapoの代表取締役としてxR、ロボット,AI等のICT技術で宇宙体験コンテンツの制作を行う。(株)ispaceのロボティクスエンジニアとして月面探査車のモビリティの設計にも従事、その他、経産省ELPISから派生のELPIS NEXTの理事、早稲田大学の招聘研究員、TECHNO-FRONTIERの航空宇宙委員、日本かくれんぼ協会の研究員などを兼任。2050年に向けて宇宙を中心に科学技術を促進。最高峰の宇宙体験の開発を目指している。

amulapo webサイト:https://amulapo-inc.com/

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