2020-2月号-特集記事-星さん原稿-Image_Credit_NASA

【宇宙 x 法律】 今こそ求められる宇宙のルール

なぜ宇宙のルールが必要なのか?

読者の皆さんは、「宇宙の法律」というとどのようなイメージを持つでしょうか?「法律」というだけで堅苦しいイメージですね。宇宙に行く前に、まずは文字どおり地に足付けて地球のルールを考えてみましょう。私たちは、普通に生活しているだけでも多くの「ルール」に接しています。

例えば、私は筋トレが趣味で鶏肉が大好きなのですが、コンビニでサラダチキンを買ったとします。この場合、私はお店と「お金を払う代わりにサラダチキンを手に入れる」という契約をしていることになります。これは売買契約といって、「民法」という法律にどんな場合に契約が成立し、何ができるか、違反したらどうなるかといったことが書いてあります。最近はポイントカードや電子マネーで買い物をすることも多いでしょう。こうした電子決済も、「資金決済法」という法律にルールが書いてあります。このサラダチキンで食中毒になったらどうでしょう?私は、「製造物責任法」という法律でサラダチキンのメーカーに責任を追及できるかもしれません。コンビニで万引きをしたらどうなるでしょう?もちろん犯罪です。窃盗になるわけですが、どんな場合に窃盗罪が成立し、どんな刑罰となるかが書いてあります。

このように、法律には「○○の場合は××となる」ということが書いてあり、何をしたらどうなるかがわかるからこそ、私たちは自由に行動できるわけです。もし「悪いことをしたら罰が与えられる」としか書かれていなかったら、何をしたら「悪いこと」なのか、どんな「罰が与えられる」のか分からず、怖くて自由に行動できませんね。

では、宇宙に目を向けてみましょう。
「宇宙空間は広いので、もしルールがなかったとしても誰かに迷惑なんてかからないんじゃないの?」と思うかもしれません。

実はそうでもないのです。
最近、宇宙空間に多くの人工衛星が打ち上げられています。例えばスペースXが打ち上げているスターリンク衛星は240基体制となっていますし(執筆時時点)、2月7日(日本時間)にはOneWebが1回の打上げで34基の衛星を軌道に投入しています。宇宙空間にあるのは運用されている衛星だけではありません。機能していない衛星を含む宇宙ゴミが観測できるだけでも約2万個あるともいわれています。

こうした「モノ」にあふれた宇宙空間でもし事故が起きた時に、「何も決まっていないのでどうしようもない」という状態では被害に遭った場合に誰に何をいえるのか分からず困ります。

そうであればこそ、必要になるのはルールです。

「ルールを作る」というと規制しようという側面に目が向けられがちですが、事前にルールを決めておくことによって、「これが起きたらこうなるんだ」「ここまでやればいいんだ」といったことが明確になります。事業者としてもリスクを事前に把握しやすくなるので、新たなプレイヤーの参入を促す効果もあるのです。

はじまりは5つのルール

宇宙に関するルールとして有名なのは、いわゆる宇宙5条約(宇宙条約、宇宙救助返還協定、宇宙損害責任条約、宇宙物体登録条約、月協定)です。これらは、国連宇宙空間平和利用委員会 (COPUOS)で作成された法的拘束力のある(絶対守らなければいけない)基本的なルールです。

COPUOSで拘束力のあるルールを作るには参加国全員が一致しなければなりません。1か国でも反対するとアウトです。今は95か国(執筆時点)が参加する大所帯となっているので、拘束力のあるルールが作れない状態となってしまっています。

とはいえ、「ルールを作れないから仕方ないね」というわけにもいきません。そこで、国連ではないところの団体などで拘束力のないルールを作って実務を運用しています。かっちりしていない法(Law)ということで「ソフトロー」といいます。例えば先ほどのデブリの問題などは拘束力こそないものの、ガイドラインを作って運用しています。

宇宙ビジネスは「宇宙×何か」で生まれます。「何か」に入るワードは無数に存在するでしょう。そうであれば、起きうるトラブルや作っておくべきルールも無数にあるはずです。ですが、現時点でそれを予測して全てに適用可能なルールを作るのは不可能ですし、実務に合わないルールを作るべきでもありません。宇宙の法律に限らず、地球上の法律から会社のルールに至るまで、ルール作りには実務のあり方を認識する力が求められるのです。

月の土地は買える?

ここまで、なぜ宇宙の法律が必要なのかについて触れてきましたが、ロケットや人工衛星の打上げは、なかなか(現在のところ)遠いお話かもしれません。もっと身近な例を考えてみましょう。

実は、私たちはネットで月の土地を買うことができます。分譲です。「月の土地」というだけで夢のあるお話ですし、月にマイホームを持つことができるようになるかもしれません。また、月だけでなく火星の土地についても売買されているようです。こうした天体の土地の売買は有効なのでしょうか?

宇宙条約と天体の領有禁止

先ほど触れた「ハードロー」の一つで、宇宙に関する最も基本的なルールを定めている「宇宙条約」2条は、国が天体を所有することを禁止しています。宇宙は誰のものでもなく(≒みんなのもの)、早い者勝ちということにはなりません。 したがって、少なくとも(宇宙条約に入っている)国が月や火星の土地を取得したり、さらに売買することが禁止されているのは明らかです。

民間企業の場合はどうなる?

ところで、月の土地を売っているのは民間会社であって、国ではありません。

宇宙条約は「国」が天体を所有することを禁止しているだけなので、民間企業が所有することまで禁止していないようにもみえます。しかし、宇宙条約6条は、国はその国の民間企業の宇宙活動を監督し、宇宙条約の規定に従って行われることについて責任を負うと規定しています。

ここで少し話題を変えます。
そもそもなぜ、私たちは土地を持つ(所有する)ことができるのでしょうか?もっといえば、「国の主権が及んでいない土地を私たちのものにする」というのはどのような意味なのでしょうか? まず前提として、土地を単に占有しているだけでは所有していることになりません。所有権が認められるには、その占有状態を国が認めていること(国が禁止していないこと)が前提です。民間が土地を所有する権利は、その国が管轄しています。もし、主権が及ばない土地について民間が占有、管理し始めて所有権があることを表明した場合、国がその土地を自国の領域に編入する(追認)ことによって、このような民間の主張が認められることになります。ですが、国がそのような追認ができるかというとできません。先ほど触れたとおり、国による天体の所有は禁止されているからです。

したがって、結論としては、国と同様に民間による天体の所有も認められないことになります。売買できない土地をあたかもできるかのように装って商品として売り出しているので詐欺になるのではないかとも思えますが、あくまでジョーク商品として販売している限りは詐欺とはいい難いでしょう。

なんだか夢のないお話になってしまいましたが、「月の土地の売買」をめぐる問題は、法的に云々というよりも、宇宙に関心を持ったり、宇宙開発の当事者となるきっかけという意味では非常に良い教材のように思えます。「月の土地」をきっかけに宇宙開発に目覚めた次世代、次々世代が、より宇宙開発を発展させていくことでしょう。

さて、次回は宇宙の環境保護について考えてみましょう!!宇宙×法のちょっとディープなお話‼︎今から少しずつ学ぶことで、より宇宙開発の裏側を支える仕組みに興味を持って頂けると思います!次回もお楽しみに...







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星諒佑
外資スタートアップに所属しつつ、個人としても宇宙ベンチャーの支援を行う弁護士。法律というよくわからないものと、宇宙というよくわからないものを掛け合わせた宇宙法を、漫画とインフォグラフィックでわかりやすく解説するnote「3分でわかる宇宙法」著者。
最近はロケットを擬人化して解説する「3分でわかるロケットガールズ」シリーズも。ロケットガールズを引っ提げ、オランダへの宇宙法留学を狙う。第一東京弁護士会宇宙法部会、日本リモートセンシング協会、日本スペースロー研究会、一般社団法人ABLab監事、リーマンサット・プロジェクト知財法務部長

星諒佑「3分でわかる宇宙法」 https://note.com/rys_star?fbclid=IwAR2hbWndO9ECv4zf4cSFkaxYs7yhlrn-SeggCVZE6fklbYDStXGI9ew4MME

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