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ピークオッドは奇跡のコミュニティ!?

こんにちは、SBクリエイティブの坂口です。小野雅裕さん「宇宙に命はあるのか」に出版社の編集担当として並走しました。今回、メルマガ編集長の梅崎さんから「小野さんの宇宙読者コミュニティについて書いてくれませんか?」と声をかけてもらいました。そこでせっかくの機会なので、ピークオッドが出版業界から見て、いかに稀有な存在なのか。改めて、読者のみなさんと考えてみたいと思ったのです。

小野雅裕さんとの最初の出会いは、『宇宙兄弟』などのエージェントをつとめるコルクさんからのご紹介でした。初回の印象は「熱い人」。宇宙に詳しくない僕でも「地球から月への距離」の比喩にたちまち惹き込まれ、ほとばしる宇宙への愛をひしひしと感じていました。

「読書会を開いて、フィードバックをもらいたい!」

そんな熱い小野さんから、唐突な提案をもらったのは、脱稿後、間もない頃です(脱稿とはワード状態の原稿が一通り完成した状態のことです)。出版業界において、完成前の原稿を世に出すのは、とてもとてもレアなこと。しかも、読者から感想やダメ出しを広く募って、ブラッシュアップの参考にしようというのです。

「大丈夫だろうか? 収拾がつかなくなるのでは?」

僕のそんな心配をよそに、読書会は大盛り上がり。実際に原稿も、「読者の引っ掛かり」がクリアにされて、ブラッシュアップされていったのでした。しかし、僕はまだこの時点で、ピークオッドと名付けられた宇宙読者コミュニティの「底力」の10分の1も理解していませんでした...。

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読者コミュニティといって想像するのは「作家のファン」「買い支える人たち」といった集団です。ピークオッドは、そんな業界の既成概念をぶち壊してくれました(もちろん良い意味で)。ピークオッドの発端は、宇宙兄弟サイトでスタートした連載を起点とする「Facebookコミュニティ」でした。結果的に、出版時点で400人の方に秘密のグループに登録してもらい、制作・販促をサポートしてもらいました。

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先ほどの原稿へのフィードバックはもちろん、図版のアイデアやタイトル会議への意見出し…さらには、書籍チラシのデザインに、「リレーブログ」という情報発信、出版記念イベントの運営…もはや編集者以上の活躍で、受け手ではなく、<発信者・作る側>に見事に回ってくれたのでした。

今回、制作に関わったコルク代表であり『宇宙兄弟』編集者の佐渡島庸平さんは、こんなことを言っています。

「僕が編集者として、原稿に口を出す必要はなかった。読者がわかりにくいと言えば、小野さんは書き直さざるをえない。僕よりも率直で厳しい編集者が何人もいる状態で、原稿を作っていった。本が出来上がるにつれて、それを売りたいという思いは、小野さんや出版社の編集者だけのものではなく、その秘密のグループにいる全員のものになった。タイトル『宇宙に命はあるのか─人類が旅した一千億分の八』も400人の話し合いで決まった。」

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佐渡島庸平 著「WE ARE LONLEY, BUT NOT ALONE.現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ」(幻冬舎)p101.より

...そうなのです。コミュニティ全体が当事者として、発信者として、この本の制作陣として名を連ねてくれたのです。

出版社の編集として今回、もう一つ新鮮な驚きがありました。それが、一緒に作る・売るよろこびが共有できたことです。参加メンバーとのやりとりはもちろん、「表紙デザインができた!」「見本が上がった!」「重版がかかった!」といったよろこびは、通常、著者やライターという最小限のメンバーと分かち合うに止まります。今回、その喜びを、数百人とともに共有しながら、制作を進めることができたことは、間違いなく本を作るエネルギーに変わりました。『宇宙に命はあるのか』に、他の本を凌駕する魂を込められたのは、そんな理由もあったのです。

さらに、宇宙読者コミュニティのすごいところは、出版後。登録者数2000人を突破した「宇宙メルマガTHE VOYAGE」の運営というインディペンデントな活動など、宇宙クラスターとして自走するチームになっていることです。本の出版を1つのきっかけにして、自立したコミュニティが立ち上がる。難しいと言われる「発信の継続」を、みんなでバトンを持ち回りながら、続けている。そして、それが誰かの「居場所」になっている。奇跡と言っても言い過ぎじゃない、と僕は思っています。

そんな宇宙読者コミュニティと小野さんの次の挑戦は、すでに動き始めています。「宇宙に命はあるのか」を子ども向けに書き直そうとしていることは、このメルマガやPEQUODのnoteをご覧の方はご存知だと思います。実は1年以上前に立ち上がり、すでに何度も何度も改稿を重ねているのです。ここで活躍しているのも、ピークオッド・コミュニティ。対象読者となる小学生のお子さんを持つメンバーの子どもたちと読書会を開き、フィードバックを重ねました。子どもたちの宇宙への愛情と知識に驚くばかり。そしてイラストは、これもコミュニティメンバーの利根川初美さんが担当。一人の読者だったイラストレーターさんが、次回作でほんとうに作り手に回ってしまいました。そんなミラクル続きの「子ども版 宇宙に命はあるのか」。11月出版の予定です。いや、あえて「予定」とは言わないでおきましょう。小野さ〜ん、原稿お待ちしてまーす!!



2020-4月号-坂口さんプロフィール画像

坂口惣一
SBクリエイティブ編集部/新書編集/「自分がいちばんの読者」をコンセプトに、人の悩みから出発した本づくりを心がけています。『宇宙に命はあるのか』『(麹町中)非常識な教え』『マンガでわかる世界の名著』『医者の本音』などの書籍を担当。2020年3月に軽井沢へ子育て移住しました。
Twitter @So_Sakagucci

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