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商用有人宇宙訓練の幕開け

皆さんは「有人宇宙」といわれて何を想像するでしょうか?文字通り、人が絡む宇宙関連の研究かな?宇宙飛行士の話かな?と思うかもしれません。基本的には有人宇宙といわれると、今までNASAや国の宇宙機関に選抜され、雇われた宇宙飛行士と有人宇宙活動のインフラ整備や保守に携わる国の宇宙機関の職員か宇宙機関に委託された業者のみがかかわっている業界です。しかし近年、ロケット製造・打ち上げや人工衛星製造等様々な宇宙産業セグメントでスタートアップが輝かしい業績を作っている中、有人宇宙の世界でも、民間が入り込んできています。今回は民間が主導する有人宇宙訓練について書きたいと思います。

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図1.NASAによる民間宇宙飛行士の導入と公表時の写真。年に2回ほど短期間、民間の宇宙飛行士がISSへ行けるように準備を進めている。その他詳細な情報・条件は民間宇宙飛行士についてのFAQ(https://www.nasa.gov/leo-economy/faqs/)に記載されている。(出所:NASA)

SpaceXやBoeingが自前で宇宙飛行士を調達・派遣するといっているように、宇宙飛行士が民間企業によって選抜・採用されているということは、その企業ですべて訓練すると思うかもしれません。しかし、実は最初は訓練を今まで通り、NASAのような国立機関が主導で行っております。これらの流れから自然と、なぜ宇宙飛行士訓練は完全に民間主導でやらないだろうと思いませんか?そう感じ、自分含め同じビジョンを持った有志で立ち上げようとしている世界初の民間主導の宇宙飛行士訓練施設Blue Abyssというものがあります。わたしはそのBlue Abyssの構想の初期から携わり、今現在はアジアで事業開発をするというミッションのもとAPACビジネスデベロップメントエグゼクティブ(長い…)として活動しております。

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図2 Blue Abyssの訓練施設の外観図と内観図(出展:Blue Abyss)

今まで宇宙飛行士訓練も民間に完全任せるのはどうかというアイデアはありましたが、リスクが高い、ニーズがそれほどない、マネタイズが長期目線でないと難しい等の理由で誰も手を付けてきませんでした。しかし、実際今まで宇宙飛行士のトレーニングの一部は外注されていて、NASAだとOceaneering InternationalやKBR。JAXAだとJAMSS、SED、INET、eVanTEC、AMILtte、AMIL等に委託されています。

デリケートな情報スキルを扱う場合はNASAやJAXAが実務まで実行しますが、宇宙飛行士の訓練の方針をNASAやJAXA等が決定後、実際に訓練を回すのは特定の民間企業であることもあります。具体的には、上記のような事業者がISSにおける実験のための宇宙飛行士の訓練や手順書作成を行ったり、管制室から宇宙飛行士への実験に関する指示を送ったり、上記の事業者所属の訓練インストラクタが宇宙飛行士に「きぼう」「こうのとり」の機器やロボットアームの操作、実験装置の使い方などを訓練したり、宇宙飛行士の運動プログラムなどの健康維持・管理計画の作成をしています。

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(出所:JAXA, JAMSS)

ISS(国際宇宙ステーション)のミッションのシミュレーション等で使う大きなプール施設NBL(ヒューストン・中性浮力研究所)やNEEMO(フロリダ・NASA極限環境ミッション運用)等のインフラは基本的に国が保有してきました。そこでBlue Abyssは民間企業として、より良い訓練施設をさらにスケールアップして、今後増える訓練のための需要に対応するだけなく、各国の宇宙飛行士が皆使うことで、施設の稼働率をあげ、宇宙飛行士訓練施設としてのコストを大幅に落とし、今後中長期的に拡大する有人宇宙訓練への需要に対応しようと考えました。

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図3 Blue Abyssのポジショニングと機能(出展:Blue Abyss)

各国の秘密事項は厳重に管理し、共有しないうえで、有人宇宙訓練のためのノウハウは、多くの人間から吸収し統合したほうが、質が上がるのは必然であり、稼働率向上だけでなく訓練効率も上がると予想されるため、米国だけでなく、欧州、ロシア、中国で宇宙飛行士訓練に関わるプロフェッショナルやそれらプロフェッショナルとネットワークをもつメンバーでBlue Abyssは活動している。

そのほかまだ詳細は公開できないが、今後の火星や月ミッションを見越して、今後必要とされうる訓練のための機能を追加し、既存のNBLやNEEMO訓練における課題を軽減する措置も施すように計画している。

日本ではあまり話題に上がらないが、英国や欧州では少しずつ認知されるようになり、スペースポート(宇宙港)や英国スペースアカデミーと連携し、著名な宇宙飛行士達からサポートのメッセージを頂けただけでなく、英国人とて初のESA宇宙飛行士であるティム・ピーク(Tim Peake)もアドバイザーとして、今年2020年1月に参加しました。

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図4 Tim Peake(出展:ESA)、Spaceport Cornwall(出展:Blue Abyss)

今後のBlue Abyssと私のミッションの一つとしては、少しずつ有人宇宙訓練の需要をアジアパシフィック内でも探索し、協力できそうなクライアントやパートナーを探すだけでなく、まずBlue Abyssとして宇宙飛行士訓練に適していそうなプロダイバー等のスタッフをNASAに送り、訓練のノウハウを引き継ぐ予定です。私も実はプロダイバー(沈船や洞窟が専門)として各国で活動していたこともあり、最初に訓練方法を学びに行くメンバーになる予定です。またアップデートがあればお伝えできればと思います。

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図5 プロダイバー森の写真(Copy Right: Hirokazu Mori)

次回は有人宇宙訓練を通し、次世代の宇宙人材の開拓やSTEM科目といわれる若手の自然基礎科学離れへの対策。そして現代の子供たちへ科学・冒険が文明を変えるトピックで寄稿させていただければと思います。



2020-10月号-森裕和様プロフィール画像

Blue Abyss
APAC Business Development Executive

Hirokazu Mori(森裕和)

世界初民間宇宙飛行士訓練事業Blue AbyssのAPACビジネスデベロップメントエグゼクティブ。英エジンバラ大学宇宙物理学部飛び級入学・首席卒業。エジンバラ王立協会から支援金を受け、理論宇宙論の研究(重力波・修正重力論)経験あり。大学入学前にプロダイバーとして地中海で活躍、バックパッカーの経験もあり、現在までに約80カ国訪問。経営コンサルタントとして、宇宙×グローバル×DXの新規事業創出と事業戦略をテーマに活躍中。オーストラリア政府主催の地球観測会議GEOWEEK2019のインダストリトラックや宇宙産業の若手有志によるイベントNEXTSPACE Vol4等で登壇。宇宙ビジネス産業プラットフォームSPACETIDEのGlobal Team 。趣味は沈船・海中洞窟ダイビング、飛行機操縦、ピアノ演奏、美術、宇宙物理等。

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