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【久保勇貴】FFS理論ワークショップ感想

想像でも創造でも、僕はいつもひとりぼっちだったような気がする。月面での遭難という設定、建物も目印も何も無い広大な大地、遠く彼方にある宇宙船、手元にはたくさんの意味深な道具たち、と、ひとりぼっちの僕。そんな映像が、僕の頭の中にはあった。パズルのような問題にひとり没頭するのは楽しかったけれど、ずっとどこかで、心細い気がしていたように思う。

人と対話するのがこわい。ワークショップが始まる前も、直前まで参加するのがこわかった。参加者の人に否定されたらどうしよう、講師の人がこわい人だったらどうしよう、自分に才能がないと見せつけられたらどうしよう、こわい、こわいこわい、まだ何も始まっていないのに僕はそういうことばっかりひとりで心配してしまう。そうしていっつも、後から自分が間違っていたことに気づく。参加者の方々はみんな優しくて、建設的で、僕の意見を受け入れてくれて、講師の古野さんは穏やかな口調で、興味深く僕の話を聞いてくれた。

そう、僕はずっと間違っていたのだ。月面の上で、僕はひとりぼっちではなかった。同じく心細い気持ちで遭難しているチームの仲間がそこにいたはずなのだ。そのことに気づいていたら、もっと色んなアイディアが出せたんじゃないかと思う。たとえば各自がバラバラに宇宙船まで上らなくても、誰か一人が確実な方法で宇宙船に上ってから他の仲間を救出することだってできたんじゃないかと思う。

そう、僕は間違っていた。人と対話するのがこわいと言うけれど、きっとみんなも、同じようにこわいのだ。きっと、僕だけじゃないのだ。そのことに気づいていたら、もっと同じチームの仲間を信頼できたんじゃないかと思う。ずっと心細い気持ちでも、その心細さを受け入れて前に進むことができたんじゃないかと思う。

たくさん間違えて、だから、たくさん学びがあった。

宇宙飛行士試験に参加するのは、正直こわい。長い間夢見てきて、けれど、だから、「あなたは宇宙飛行士には向いていません」と宣言されてしまうのがこわい。でも、やっぱりこれも僕の間違いなのかもしれない。こわがらなくてもいいのかもしれない。

もうすぐ0次選抜試験が始まる。たくさん間違えて、たくさん学んでやろうと思う。

久保勇貴
工学博士、現JAXA宇宙航空プロジェクト研究員。専門は宇宙機の軌道・姿勢制御、ロボティクス。JAXA宇宙科学研究所にて様々な宇宙開発プロジェクトに貢献している。研究活動の傍ら、宇宙と日常生活の繋がりを描くエッセイも書いている。

【代表作】

『ワンルームから宇宙を覗く』(OHTABOOKSTAND)
『宇宙を泳ぐひと』(UmeeT)

Twitter: @astro_kuboy (https://mobile.twitter.com/astro_kuboy)

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