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宇宙に医療を〜Space Medical Acceleratorの挑戦〜前編[後藤正幸]

はじめまして。今年2月に創業した、一般社団法人Space Medical Accelerator代表理事の後藤です。私は地方の病院で働く一人の外科医ですが、人の宇宙進出への機運が高まる中で医療者としてそこに少しでも貢献したいと考え、2019年より宇宙ビジネスの実践コミュニティABLabという団体で活動をはじめました。そして今回、志を同じくする仲間と共に、人の宇宙進出・滞在に不可欠となる「医療」という分野で新たな宇宙事業を目指す、企業などのお客様に対して立案から実現まであらゆる形での伴走支援を行うサービスを立ち上げたのです。今月から2回の連載で、1回目の今回はSpace Medical Acceleratorとはどんな法人なのか、どのように創業までたどり着いたのか我々のあゆみについてお話します。


Space Medical Acceleratorとは

Space Medical Accelerator(以下、SMA)は、近い将来に多くの人々が宇宙へ進出・滞在するために必要となる、医療分野での新規製品やサービスを生み出すことを目的とした事業団体です。人が行くところにはどこでも医療が必要で、宇宙空間においても心身の健康を保つことは何よりも重要です。
宇宙での医療には「医療機器やスタッフなどの資源が十分に存在しない」「遠隔での医療が中心となる」という特殊性がありますが、実はこれらは医療機関へのアクセスが難しい地上の僻地医療や、コロナ禍でオンライン診療が推し進められている現代社会にも共通する課題となっています。宇宙での医療を向上させることは、地上医療への貢献にも繋がると考えています。
これは臨床の場面だけではなく、医学研究においても同様です。宇宙の微小重力環境を利用した医学研究として、質の高いタンパク質結晶を生成できる事を生かした創薬の研究や、筋萎縮や骨量減少が急速に進む事からマウスによる老化研究が進められています。
 JAXAの「将来有人宇宙活動に向けた宇宙医学/健康管理技術のギャップ一覧」https://humans-in-space.jaxa.jp/library/item/med/200207_technical-gap.pdf
で公開されているように、人類の宇宙活動の発展のためには、まだまだ解決が求められる医療課題が山積しています。けれど私たちは、これらの医療課題を解決する可能性を秘めた、優れた技術を持つ企業は実は多く存在しているのではと考えています。宇宙での医療に役立つとはまだ考えられていない、いわば眠った技術に光を当てて新規事業として企業活動に貢献しながら宇宙と地上医療の発展に繋げていく。新たな宇宙事業、特に人に関わる「医療」という分野においては企業などの産業界、大学などの研究機関、文部科学省やJAXAなどの国家機関の連携が不可欠です。私たちは一般社団法人という立場を生かし、各プレイヤーの間を機動的に走り回って、新たな融合を生み出す役割を果たしていきたい。
私たちは、「宇宙医療分野の事業コーディネーター」となることを目指しています。

SMA誕生までのあゆみ

私たちSMAは2019年、前述のABLabというオンラインコミュニティにおいて「宇宙医療プロジェクト」として発足しました。これまでになかった「医療」という分野での新たな宇宙ビジネス創出を目指して、事業アイデアを話し合う定期ミーティングや、最先端の宇宙医学研究について分かりやすく解説する情報発信などを行っていました。
大きな転機となったのは2020年、JAXAによる
「THINK SPACE LIFE宇宙生活の課題から宇宙と地上双方の暮らしをより良くするビジネス共創プラットフォーム」https://aerospacebiz.jaxa.jp/solution/j-sparc/projects/think-space-life/が発足したことです。私たちが議論を重ねて提出した事業アイデアは残念ながら非採用でしたが、おかげでこの「宇宙生活」という分野で新規事業を目指す企業コミュニティへ参画できることとなりました。ここで多くの企業と交流を深め、「人」に関わる分野で新たな宇宙事業を目指す企業には実現へのどんなハードルがあるのか、そして宇宙での医療という知見を集積している私たちに、何ができるかを考えるようになったのです。
2021年には、「宇宙滞在と医療ヘルスケア分野の研究・技術の最先端」「医療ヘルスケア製品の宇宙市場への展開・ビジネスモデルについて、海外の先行事例から」という2大テーマで企業向けの勉強会開催や、顧客企業のコア技術を生かした新規事業支援も行うようになりました。また、宇宙航空環境医学会という宇宙医学の全国学会で、顧客企業との共創事例について展示を行うなど、宇宙医学研究者の方々との繋がりも深めてきました。
そして2022年2月1日、一般社団法人SMAとして宇宙医療での事業コーディネーター、新規事業創出支援を行うというサービスを開始したというわけです。
創業まもない3月には、私たちの本拠である茨城県が開催するIBARAKI Next Space Pitchというビジネスコンテストに出場し、準グランプリを頂くことができました。おかげさまで、現在多くの企業や宇宙医学研究者の方などから問い合わせを頂いており、一つ一つ全力で対応をしている所です。

以上、今回は私たちSMAの事業活動と、創業までの歩みについてご説明しました。
来月はSMAが目指す未来の姿と、私自身が外科医という職責を果たしながら宇宙事業とどう向き合っていくのか、日々悩み考えている事についてお話します。

後藤 正幸
一般社団法人Space Medical Accelerator代表理事。「宇宙に医療を」目標とする、脳神経外科医。臨床に励む傍ら、人の宇宙進出に医療者として少しでも貢献することを目指し日々活動中。大学院生として宇宙医学研究も行っている。
Twitter:@masayuki198553
一般社団法人Space Medical Accelerator: https://space-healthcare.jp/


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