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育児放棄

 工藤さんは思春期に入ると、実の母から酷い虐待を受け始めた。理由は分からない。幼い頃はテレビやドラマに出るような”優しい母親”だった。母は徐々に豹変していく。工藤さんは母から毎日のように叱責されていた。酷い時は暴力や、食事もろくに与えられない。真夏真冬関係なく、夜中外に出される。そして泣きながら朝まで徘徊することもあった。このような行為を母にされても、心底憎むことは出来ない。優しい頃の母が頭によぎるからだ。工藤さんはむしろ自分を責めた。(自分が悪いのだ)と。父は仕事のため家にいることが少なかったが、自宅に戻ると母を必ず嗜めてくれた。そしてとある神社へ頻繁に行き、お祈りをしていたようだった。父も母には元に戻ってもらいたいのだろう。工藤さんも同じ思いだ。けれど効果はなく、余計に酷くなるばかりだった。ある日、口論になった時に母が言葉を吐き捨てた。「高校を辞めさせるからな」何度も止め、謝ったが許されない。結局、強制的に高校を辞めさせられた。憤りと怒りが込み上げるが、直接危害を加える勇気もない。(何故あんなになってしまったのだ)日に日に人格が破綻しているようだ。とにかく元の母に戻ってほしい。そう思った矢先、母は完全に狂い自ら命を絶った。工藤さんは悲しみなどなく、何処かホッとしたそうだ。平穏な日を取り戻した。ある時、父が頻繁に足を運んだ神社は、有名な縁切り神社だったと工藤さんは知る。それから間もなく、父は再婚したそうだ。

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