「プリティ・ビッチ」
パーティー。パーティーが無きゃ生きてけない。ワインと女、ダチのイカしたジョーク。そこに最高のショウがあれば文句無いってもんだ。でももう1ヶ月もご無沙汰。
その日も朝から退屈しきって、電話がなけりゃ消しゴムのカスでも食べてるとこだったよ。もちろん冗談。笑えないのは退屈のせい。リンリンリリン。ガチャリ。
「もしもし!?3時間前に注文した、金玉入りのピッツァがまだ届かないんだけど、どうなってる!?
待ってました。サイテーなジョークが大好きな、最高に病気なダチ。ジャック。
「ハロー、お待たせして大変申し訳ありません。今野犬を羽交い絞めにして、両足を押さえつけているところでして。
「おいおい。待ちきれないから脇汗でシャンペンタワーが完成しそうだよ!!
「お詫びに私のワイフのチキンテールをたっぷりトッピングさせていただきます。
「ハローゴミチョフ!!だいぶ脳が萎縮しちまってるな!!
「ハロージャック!!おまえのケツの皺ぐらいだな!!
ジャック。10年来の腐れ縁。お互いにヒドいジョークを競い合ってきたから、もう何が面白いのか麻痺してる。
「今サイッコーにビョーキなパーティーに来てるんだ。シモキタザワ、ニッポンのオフシアターの打ち上げパーティーさ。シットなアクターと、アクトレスとは名ばかりのフッカーだらけだよ。カモン!ゴミチョフ!!
シモキタザワ。駅の周りは年がら年中工事してて、サブカルチャー大好きなガキがいっぱい。「ヘイ!こっちだゴミチョフ!!
羊小屋みたいな劇場に入ると、客席にも舞台にもどこもかしこも人、人、酒、人、酒。馴れ馴れしく肩に手を回してくる奴あり。片隅で泣きじゃくる奴あり。イカれた一人芝居を始める奴あり。「こいつら毎日こんなんさ。24アワーパーティーピープル。
申し分ないよ。パーティーが無くて死んじまうとこだったんだ。チェッ!
「聞いてくれよジャック、ジェームズの奴が次回作に出演してくれってウルサくてしょうがないんだよ。
「本当かいゴミチョフ?奴の映画なんて出演した日には、君のケツがいくつあっても足りないぜ!!
「本当だよジャック!だから言ってやったのさ。『君の映画を見てただでさえケツが痛くなってるのに、これ以上耐えられないよ!』ってね!!
「そりゃあ傑作だ!もっとも君のワイフだったら、喜んで貸すだろうがね!!
「おいおいそんな事したら、奴の次回作はオープニングで、ウチのワイフのケツが3Dで飛び出してきちまうよ!!
「せいぜいケツを磨いておくように、君のワイフに伝えておくよ!
近くにあったマイクスタンドに話しかけようとするジャック。
「待てよジャック!ウチのワイフはいつの間にダイエットしたんだい!?
「ハッハッハッハッ!!!
イエーイ。視線が痛いほど。早速小太りの男が話しかけてきた。イカした女優じゃないのが残念だけど。
「ミスタージャック!!、楽しんでいただけてますかな?
「オーウミスター海老!いつ来ても君のコンペティションパーティーは最高だね!紹介するよゴミチョフ、こちらがこの劇団のプレジデント、ミスター海老ザイルだよ。
「初めまして、ハハハ!!てっきりミートソースをかけられた牛が口きいてるのかと思ったよ!!
「今夜の打ち上げパーティーは、少し趣向をこらしてましてね。この後ステージで最高のアクター達が次々にエクセレントなパッケージショウを披露してくれるのですよ。
「そりゃあいい!!で、僕らは出番のたびにそいつらにパイを投げつけるってわけか!!
「まずはウチのワイフで練習しておかないとな!!
全く大した趣向だよ。シモキタザワのオフシアターにはお似合いってもんだ。
「しかし、世界中のエンターテイメントを見尽くしたあなた方だ。ちょっとやそっとじゃご満足出来ないかもしれない。ここは一つ、ゲームをしませんか?
「おいおい、これ以上ニンテンドーに儲けさせるのは勘弁してくれよ!!
「君の息子は、マリオをダディだと思ってるんだろう!?
「今夜このパーティーで、ある女性に一人芝居をしてもらうことになっています。が、彼女実はとてつもないビッチなんです。
「おいおい!ちっとも笑えないジョークだよ!
「ビッチが演技するなんて、赤の広場でガンズアンドローゼズがライブをするようなもんだ!
「彼女をビッチから最高のレディーに変身させられたら、私は劇団の主宰を辞任して、次回公演をあなたがたにお任せしましょう。どうですか?このゲームは。
「何てこった!いったいどれだけのビッチなんだ!?
「自分の事を“アタイ”とか言う感じなのかい!?
その時。
“Pretty Woman”が流れ、ステージに明りが点いた。舞台のセンターに彼女がいた。どうなったかって?僕はまるっきり立ちすくんじゃったのさ。
何て事だ。僕のハートは一体どうしちまったんだ!?彼女は、、、見た目はまるっきりゆとり教育世代ビッチなのに、演技を始めたとたん、僕の目は釘付けだった。最高のプリティーウーマン、スイートチャイルドオブマイン、、、
「どうしたんだいゴミチョフ!死にかけのハトみたいな顔して!?
「ジャック、、、笑わないで聞いてくれ。どうやら僕は、本気で恋しちまったみたいなんだ、、、
「ハッハッハッ!!(爆笑)ハーッハッハッハ、、、!!!!あーおかしい。今日一番笑っちゃったよ。ヒャヒャヒャヒャ!!!ブー!!
「そんなに笑うことないだろう!?真剣なんだ僕は、、、。あのゆとりビッチなアクトレスに夢中なのさ、、、
「ブー!!!ブヒャヒャヒャヒャヒャ!!!ワー!!!
笑い転げるジャックに平手打ちをかましてから僕は、演技を終えたばかりの彼女に歩み寄った。勇気を振り絞って告白したのさ。自分がアメリカ人でも何でもない、ただのニートだってことも含めて。
「、、、?ってかキモいんすけど。あーでもあーざーす。そこだけは嬉しいっすー。
今夜も僕は、シモキタザワのオフシアターの最前列で彼女を見つめる。僕だけのプリティ・ビッチ。
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