本当のことを言うべきか、言わざるべきか。それが問題だって話。
ブーブー。
YouTube見ながら芋けんぴ食べてると、LINEの着信があった。
「古屋っち先日はわざわざ公演観に来てくれてありがとう。バタバタしてて挨拶もできずごめんなさい。よかったら感想聞かせてくれると嬉しいでーす♡
城みちる」
そっだ。
もう1ヶ月前かー。
年末のくっそ忙しい時期に無理して、池袋の小劇場に足運んだの。みちる先輩が新しく立ち上げた、演劇ユニットの旗揚げ公演。
観劇前の興奮もわくわくも全く無くて、見た感想はザ・つまんない。超退屈で苦痛な2時間半。
シェイクスピアを実験的に演出したけど、特に効果的でもなく成功もしてない。実験することに満足して終わり。
みちる先輩は何か新しいことをやろうとしたんだろうけど、結局昔所属してた劇団の亜流スタイルでしかなかった。昔いた劇団は、演出家に対して長年の不満が溜まって辞めたらしいけど。
いや。でも。つまんない芝居でも別に良かったわけで。
去年俺がみちる先輩に不義理をして、そのお詫びの意味で観に行ったんだし。
内容がつまんないとか関係ないし、終演後みちる先輩に挨拶すれば、古屋っちわざわざ来てくれてありがとう、どういたしまして良かったです〜で、義理も果たせただろうから。
てか、終演後に挨拶すれば良かったじゃん俺。
まだコロナ禍とはいえ、特に終演後の挨拶お断りでも無かったし。普通に関係者のお客さんみんな挨拶してたし。
大体ぎゅうぎゅうの小劇場で観劇してる時点で、感染防止うんぬんはうやむやだろが。
何でかな。劇団時代の知り合いの舞台に誘われるのは、昔のご縁のお付き合いなんだし、割り切ってお世辞言ってればいいものを。
何むきになってんだ俺。
とりあえず返信。
「みちるさん、本番お疲れさまでした。こちらこそ挨拶出来なくてごめんなさい。満員の客席で、公演も成功で何よりです」
嘘でも誉めりゃいいのに。内容に触れないの不自然かな。
「古屋っちありがとう!」
「ハムレットって、内容知ってるつもりだったけど、結構周りくどい話だったんですね」
「あー、確かにね〜」
「王の前で当てつけに芝居をするのって、何か粘着質に感じて。ハムレットって二枚目なイメージの役だけど、オフィーリアの扱い酷いし、主役として魅力が無いなと思いました」
「へぇ、そういう意見かぁ」
「みちるさんは、何で今回ハムレットやろうと思ったんですか」
「そうだね、ハムレットを女性が演じてずっと寄り目ですり足で右半身麻痺で小指を立てて自閉症っぽいトーンで演技してたら、面白いかなと思って」
「へーなるほどー そうだったんですねー」
…。
やり取りはそこで終わり。
みちる先輩。
まだ俺が演劇始めたばかりの30年前、先輩に当たる劇団の女優さんだった人。
その劇団は実験的なスタイルで、学校の演劇観賞会しか知らなかった俺には、眩しくてカッコ良くて最先端で、とんがってる東京の演劇の象徴だった。
何でだろ。
俺が演劇辞めるとき、もう未練残さずキレイに離れてたら。今でも演劇続けてる昔の仲間を、素直に応援出来たんだろうか。
俺にまだ変なプライドがあったのか。
今でも俳優やったら、俺はいけるぜとか思ってんのか。テレビで活躍してるあいつやあいつより。
みちるさんはもう、俺が昔憧れてたときみたいに輝いてはいなかったけど。
そんなこと伝えて何になる?苦しくたって歯を食いしばって続けてる。それしか出来ないんだ。お前だって演劇やってたんだから、気持ちは分かるだろ。
でもね。みちるさん。
俺もずっと変な気分なんだ。俺の気持ちを世界の誰も分かってくれない。俺以外のみんなが間違ってる。どうしても分かって欲しくていつも回りくどいことばかりしてる。
もう演劇も役者も辞めたのに、ハムレットの気持ちが誰よりも分かる気がする。
だから。何で今でも一生懸命演劇続けてるみちるさんが、あんなに薄っぺらいハムレットを作ったんだろうと。ムキになっちゃったんだと思う。
今度こそ会ったらちゃんと伝えよう。
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