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【HR3.0のすヽめ】戦略的人事に必要な考え方

「いたるところに無知と、驚くべき暗闇がある」

1807年、ベルリン大学の総長であるヨハン・フィヒテは、「ドイツ国民に告ぐ」という演説の中で、彼の母国ドイツ(プロイセン・ドイツ)と、ドイツの教育への憂いを短い言葉にして印象的に伝えました。ナポレオン戦争の後遺症で荒廃したプロイセン・ドイツ。フィヒテにとっての憂いの対象は、戦争で失った独立心に対するものでした。

独立を失った国民は、同時に、時代の動きにはたらきかけ、その内容を自由に決定する能力をも失ってしまっています。もしも、ドイツ国民がこのような状態から抜け出ようとしないなら、この時代と、この時代の国民みずからが、この国の運命を支配する外国の権力によって牛耳られることになるでしょう

人事はいつから「戦略的」ではなくなったのか

私はフィヒテのような知識人でも、ベルリン大学の教授でもありません。吹けば飛ぶようなHR系スタートアップのただの事業家です。しかし、ありがたいことに、仕事がら国内外問わず数多くの優れた人事担当者の方とディスカッションさせていただいております。そのディスカッションの中で、日本のHR界隈に対する幾ばくかの憂いをもつようになりました。人事の仕事の「いたるところに無知と、驚くべき暗闇がある」と思うようになったのです。(←)

近年耳にすることが多くなった「戦略的人事」という言葉。人事戦略の重要性が認識され、今まさに人事革新が迫られています。しかし、裏を返せば、いつから人事は戦略的ではなくなってしまったのでしょうか?

第一次世界大戦前後のアメリカ (Pax Americana時代) では、まさに「人事」が「戦略」の担い手でした。大量生産のライン方式を採用したヘンリフォードのT型フォードは、まさに優れた人事戦略の賜物と言えます。大きな需要の中で、フォードの課題は生産台数を確保すべく生産効率性を高めることでした。フォードはライン労働者の仕事を観察し、発見した課題に対してソリューションをあてはめることで、会社全体の生産性を圧倒的に高めました。例えば、今までの9時間労働の2シフト制から、8時間労働の3シフト制への移行などは、現代の8時間労働性の基礎となるような人事施策でした。また、モチベーションアップや優秀なライン労働者の離職予防のため、支払う給与を約2倍にしたという人事施策も、離職予防に成功した上、採用効率も高まり、結果としてフォードの業績を大きく向上させました。

このように本来人事は「戦略的」であり、経営者にとっての経営パートナーでした。しかし、世界恐慌や、オイルショック、リーマンショックに端を発する金融危機の中で、人事は「戦略」から「オペレーション」へとシフトしていってしまったのです。

リーマンショック後の金融危機の中では、人事機能は縮小の方向性が取られました。人事の人数は減らされ、入退社の手続きや、勤怠・給与管理など必要最低限のオペレーション業務が人事業務の中心になってしまったのです。

「その時」がきた。今こそ人事が戦略を担う時代に。

今、時代は大きく変わりました。数多くのイノベーションに支えられ、景気は回復基調にあります。それだけではなく、人材投資こそが企業の成長の源泉であるソフトウェア時代において、人事戦略は経営戦略の中心と言えるようになってきました。実際に、GoogleやFacebook、Salesforceなど、テックジャイアントたちが、統計の専門家を人事部に配属させ、データ解析から人事プロセスを改善しています。そう、経営戦略の実現するために、組織戦略にフォーカスしているのです。

HRtechで人事は何をするのか?

近年HRtechの浸透が進んできました。採用管理ツールや労務管理ツールなど、「業務効率化」を推進するツールの拡大が進みます。しかし、HRtechの本流は、「業務効率化」ではないと考えます。HRtechを活用して取り組むべきは「経営戦略を実現する人事戦略」であるのではないでしょうか。

人事戦略が企業の競争優位に大きく関与する時代において、「オペレーションの効率化」は、勝ちパターンではありません。今、人事に求められているのは、データドリブンに組織を改善し、経営戦略を実現する「人事戦略」なのです。

エンゲージメントサーベイは「アクション」ではない。

Pulse Surveyで組織の健康状態を把握している方も多いと思います。しかし、これは本当に戦略的人事なのか、少し振り返ってみてください。

面白いデータがあります。Glassdoorの調査によると、2010年のアメリカの平均社員エンゲージメントスコアは5段階中おおよそ3.2ほどでした。その後数多くのPulse Survey系のツールが席巻し、数多くの企業が定期的にアンケートを実施することで組織の状態を測るようになりました。その結果、どうなったのでしょうか?Glassdoorの2017年の平均社員エンゲージメントは、なんと、ほとんど変わらなかったのです。

つまり、社員エンゲージメントを測るだけでは全く意味がなく、ひとつひとつのPeople Processの改善し続けることが必要であるのです。

例えば、Googleは、ハイパフォーマーの生産性を高めるために、面接回数を10回前後から4回にまで削減し、ハイパフォーマーを面接にアサインする回数を減らしました。このような人事プロセスの改善こそが「戦略的人事」時代に必要になっているのではないでしょうか?

企業経営の屋台骨を担う人事担当者に告ぐ

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戦略を失った人事は、同時に、時代の動きにはたらきかけ、その戦略を自由に決定する能力をも失ってしまっています。もしも、人事担当者がこのような状態から抜け出ようとしないなら、この時代と、この時代の人事みずからが、所属企業の運命を支配する他社の力によって牛耳られることになるでしょう

戦略的人事を実践する方法に関して、私なりに考えをまとめていますので、こちらにも目を通していただければ幸いです。



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