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【戦略的人事のお手本】Facebookのワークフォース・プランニングの真髄

Strategic Workforce Planning (SWP) という言葉をご存知でしょうか?日本語でいうところの「人員計画」に近しいワークフォース・プラニング。Data-Drivenに戦略的に行うことがSWPの本質と言えるでしょう。

2018年6月にカナダ・トロントで行われたHRtech Summit。キーノートとして、Facebook本社のStrategic People PlanningのTopである、Ross Sparkman さんがSWPについて講演されていましたので、その内容を私なりに追っていきます。なお、Rossさんの著書も参考にしています。

https://www.amazon.com/Strategic-Workforce-Planning-Developing-Strategies/dp/074948201X

Rossさんによれば、SWPとは下記の通り定義できるものです。

SWP is the process of thinking through the challenges and opportunities that an organization's people could/will face as market conditions change and business cycle changes. (SWPとは、組織構成やビジネス環境、競争環境が変化することで、企業を直面する脅威や新しい機会を見据え、組織の人事戦略について考えるプロセスである。)

具体例で考えていきましょう。

Widgets-Are-Us (WAU) という仮想の会社があります。WAU社のPeople AnalyticsチームがSWPを実行するケースを想定してください。

彼らがまずはじめに行うのが、現在組織の現状把握です。平均年齢や平均継続期間などのメトリックをそれぞれ検証します。その結果、WAU社では、組織の70%が50代であり、そのうちの60%の社員が専門的な技術を必要とする業務を行っていたことがわかりました。

次のStepとして経営状況を解析します。WAU社ではR&Dが成功し、3Dプリティングを用いた新商品が拡大しており、経営陣としても注力している事業になりつつあります。しかし、3Dプリンターチームには、新しいスキルセットをもつエンジニアチームが必要であることもわかっています。

この振り返りから、SWPとして下記2点が対象になりそうです。
① 近いうちに退職が予測される50代の社員のもつスキルをどのように継承していくか
②3Dプリンター事業を拡大していく中で新しいスキルセットをもつ人員をどう拡大していくのか。

上記の課題をさらに細分化していきます。「失われてしまう重要なスキルとは何なのか」、「退職する社員の一部をパートータイムとして継続することは可能なのか」、「次の世代への技術指導のプログラムをあるか。機能しているのか。」、「3Dプリンター事業で必要なるスキルとは?」、「そのスキルをもつ人物は社内にどの程度いるのか」、「外部から何名採用すべきなのか」、「そのスキルをもつ人材の市場価値はどれくらいか」など。

SWPを実行することは、これらの課題や議題に対して、プロジェクトとその責任者を制定し、成功を定義し、成功に向けたタイムラインと、個別具体のアクションプランを策定し、コスト管理 / 進捗管理を行っていくことになるのです。

つまりSWPとは、企業としての目指すべき未来の姿と、現状を比べ、その差分を戦略て埋めていくことであると言えます。

Facebook流のSWPの始め方

SWPは、まずデータから始まります。SWPとは、組織の現状と、未来の理想の組織の状況を理解するためのデータドリブンアプローチであるのです。

SWPでは組織の理想系を定義した上で、主に下記の項目について注力的に分析し、プランニングしていくことになります。
① Headcount Simulation (人員数計画)
② Skillset (能力やスキル)
③ Learning and Development (能力開発)
④ Total Cost Simulation (人件費計画)
⑤ Mobility Simulation (異動 / 昇格 計画)

データをもとに、これらのコアに切り込んでいくのがSWPですが、その粒度や精度などは各社にとって、バラバラになりがちであるとRossさんは言います。だからこそ、SWPの成功にはまず4つの重要な要素を明確にしておくことが大切なのだそうです。

まずは、Visionです。SWPで人員数やコストを把握するという比較的簡易的なものから、スキルや、その育成計画にいたるまで明確にプランニングするなど、難易度の高いものまでバラバラです。また、AIを用いて離職率を計算に入れる、採用にかかる時間をプランニングにいれるなど、やりたいことは後を断ちません。だからこそ、各社ごとにSWPの成功やVisionを明確にしておく必要があるのです。

その次にSWPチームのメンバーを考えます。目指すべきVisionやGoalにそって、SWPチームのメンバーも変わってきます。エクセルでのレポートだけで良いのであれば、エクセルが使いこなせる人だけでいいかもしれません。しかし、本格的な統計解析を行うとなると、BIツールやSQLなどのプログラミング言語を使える人がいた方がいいかもしれません。さらにAIを用いた予測まで実行するにはMLの知識もつメンバーも必要になってきます。

そして肝になるのは、テクノロジーの部分です。既存の人事データを元にSWPを行っていくので、分散したデータを統合するデータベースは必要になります。それらのデータをエクセルで解析するのか、タブローのようなBIツールを利用するのかも検討しなければなりません。また、設定したアクションプランをトラッキングし進捗を確認するためには、Dashboardをもち、データが自動反映されるようなベンダーのシステムが必要になるかもしれません。ここも、Visionに合わせてテクノロジーの選定が必要と言えます。

Facebookが目指すSWPとは?

Rossさんは、経営を加速され企業価値の最大化こそがSWPやPeople Analtyticsの目標であるとしています。つまり必要なタイミングで、必要なスキルをもつ人材がいないために事業成長を遅らせてしまう、予期せぬ退職で重要ポジションがぽっかり空いてしまい成長を止めてしまうことは、なんとしてでも避けなければならないと考えます。

Facebook社ではアメリカ本社支社だけではなく、全グローバルの拠点の人員計画や、採用計画、サクセッションプランニング、育成計画を全てをアメリカ本社のSWPチームがリアルタイムで可視化し管理しつつ、いざという時のバックアップ体制を整えているそうです。リアルタイムで綿密に各拠点とコミュニケーションがとることで、困っている時には必要な人材を派遣するなどリアルタイムでのサポートが可能になるのです。

その一方で、SWPの精度を高めるのもRossさんの使命だといいます。MLを用いた離職予測はもちろんのこと、各社が採用のマッチング精度を高めるためのモデル構築や、育成を効率化するための社員と研修プログラムとのマッチングモデルなど。

FacebookのSWPは、革新的で未来的ではあるものの各社が参考にすべきベストプラクティスの一つと言えそうです。

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