偶然の再会 某遊園地にて

その昔、スーツアクターをしていた。
別に特撮の“中の人”とかスタントマンになりたかったわけじゃない。
着ぐるみで子どもと写真撮ったり、風船プレゼントなんかをしたかった。

実際は特撮ヒーローものやアニメの着ぐるみで、イベント会場で30分程度のショーに出演するのが中心だった。

バイトを始めて最初のお正月に某遊園地でアニメキャラの中の人として、グリーティングをしていた。
グリーティングとは、お客さまと握手をしたり写真を撮ったりするサービスを行うことで、ステージでのショー等とは違い物語もないし、特別な技術や演技力はいらない。

元旦から1/7まで毎日、KとNというキャラクターを同期のAちゃんと日替わりで担当していた。
1/3ごろだったか、私はKを担当していた。そこへキャッキャとはしゃぐ若い女性のグループがきた。
見るからに女子大生。まぁ私やAちゃんと同世代。
そりゃそうだ、冬休みだ。友達同士で遊びにいったりするわ。
私とAちゃんは寒い中連日のバイトだけど。
その女子大生グループのうちの一人が『うわ、Kがいる!私握手してくる~』と言いながら、こちらへ近づいてくる子がいた。
他の女の子は『え、まじ?やだー!』とか言いながら離れてみているのが、着ぐるみ越しでもわかった。
握手をしにきた女子大生は私より少し小柄で、楽しそうに『Kくん、握手してください!』と両手を差し伸べてきた。
仕事であるのはもちろんだが、子供ではないお嬢さんが楽しそうにしてくれているのは珍しくもあり、ちょっと嬉しくなった。
こちらも両手で彼女の握手に応えた。
Kというキャラクターは少年なので、頭部もコンパクト。
自分の目に近いところに視界となる紗幕が張ってあるため、少し小柄な彼女の顔がしっかり見えた。

なんと、高校時代の同級生!

中学時代に塾の冬期講習で知り合い、同じ高校で再会、しかも同じクラスになったマイコ(仮)だったのだ。
びっくりした。
それ以外の表現はない。ただただビックリ。
そして笑いたい気持ちを抑えながら、彼女の手をギュッと握った。
幼い顔立ちのマイコは子供のようにニッコリして、
「うわぁ、ありがとう!」
と言うと、彼女より大人っぽい雰囲気の女子大生グループの方に戻っていった。
こんなことってあるんだなぁ・・・と思いながら、近寄ってきた子供たちと握手をしていると、マイコの声が聞こえてきた。
「Kくんと握手しちゃった!うれしい! ・・・もう一回してくる!」

マイコは小走りにやってきて
「もう一回いいですか?」
と手を出した。
ウンウンと頷きながら、またも彼女の手をグッと握った。
心の中で大爆笑の私に手を振って、マイコはまたグループにもどっていった。

その翌日だったか、私はマイコに電話した。
「ねぇ、マイコさぁ、3日に〇〇遊園地にいたよね。Kと握手してたよね、しかも2回!」
「え、何!? 三桃もいたの? どこで見てたの? 気づかなかったよ! 声かけてくれればよかったのに~! 」
当然、声かけられるわけないんだけど。

もちろんマイコには種明かしをした。
マイコも驚き、お互いに爆笑した。
考えてみれば、それ以来マイコと連絡は取っていないような気がする。

意外なところで意外な人と出会ったり再会したりすることはあるものだが、この仕事の時にマイコ以外にも出会っていた人がいたことが、後年わかった。

その後もキャラクターショーの仕事などを続け、ベテランといわれる年月が経ち、後輩の指導等も行うようになった。

マイコとの再開から7~8年あとだっただろうか。
18歳の女の子がバイトで入ってきた。タカヨ(仮)という子だった。どうしても着ぐるみの仕事がしたい、と言うものの長年病気を患っていたとかで、身体が弱かった。
それでも練習も熱心に参加し、出番の短いキャラクターを担当するなどして頑張っていた。

ある日、タカヨは自分がなぜ着ぐるみの仕事をしたいのかを話してくれた。
「私本当に体が弱くて、結構難しい病気だったんです。歩くのも大変で。
友達と遊びにいくのも車いすだったんです。
中学生の時遊園地に行ったんですけど、私車いすだから入ったり乗ったりできないものもたくさんあって。
私が車いすで外で待ってたときに、Kが私のところまで来てくれたんですよ。ちょっと離れたところにいたのに。小さい子でもないのに。
すっごく嬉しかったんです。私のこと見つけて来てくれたのが。
人を幸せにする仕事なんだって思って、私もやりたいって思って・・・」

これまたビックリした。
同期のAちゃんと日替わりでKをやっていたから、それは私かAちゃんかはわからない。
Aちゃんとはその時も一緒に仕事を続けていたので、タカヨの話を伝えた。
もちろんAちゃんも驚いていた。
その日のKが私にしろ、Aちゃんにしろ、どっちでもよかった。
どっちだったとしても、一人車いすで友達を待っている女の子を見つけたら、駆け付ける。握手だって写真撮影だってする。これは間違いない。
Aちゃんとも、そう話した。
なんだ、私の仕事っていい仕事なんじゃん!って思った。
そして同じ仕事をしたいと思って、病気と闘い、体力をつけたくさんの努力をしてくれた子がいる。
すごすぎる。

よく音楽や笑い、エンターテイメントは人の心に寄り添い、元気をくれるって言うけど・・・こんなにハッキリと直に体験したのは初めてだった。
タカヨと会えて、また当時の話を聞くことができたのは、もう奇跡に近い。

私は『偶然の再会』の経験が多い方だと思う。
他にもあれこれあるけれど、このタカヨの話は絶対に生涯忘れないだろうな。
いつの間にか会うこともなくなってしまったタカヨ。元気にしてくれていることを祈るばかり。

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