お母さんをしのぶ川柳

手を引いて おとうさん起こす 夢見たよ

お母さん。わたしたちを苦しめたお父さんの夢を見たよ。ひっくり返ったお父さんの手をとり、起こしてあげる夢だった。
酒乱で、酔って帰った日は、顔つきも変わり、目が座って怖かった。私の幼児期から安心安全な場所を奪った父。実の父ではなく再婚した父だったから私は母を憎んだ。
校長でありながら、二日酔いの次の日は家で寝ていた。趣味はギャンブルで、まじめな人なのだろうが、まったく尊敬できなかった。退職後は、じっと家にいて、何をすることもなく、あいかわらず競輪だけ熱心だった。
そんな奴を最後まで看取り、母はあいつを幸せにしたことだけが自分の人生の実りだと言っていた。
私を生んだことが幸せだったと言ってほしかった。
あいつと再婚して、幼児期の私を不幸にした。
あいつが教師だから母は再婚した。教師という世間から見た目のよい肩書を持つ父親が私のためになると思ったのだろう。
私は酒乱の父など欲しくなかった。
母は幼い私に「離婚しようと思う」と言った。どうして、私に相談などするのか。私は「かわいそう」と言った。どうしてそれで「別れない」と判断するのか。本当に私のことを考えるなら、別れるべきだった。
どうしてさっさと別れなかったのか。
あいつがいたから、十分に母に甘えることもできず、あいつに遠慮して、十分に母と接することもできず、あいつを憎んだせいで、あいつと再婚した母まで憎むことになった。
あいつが死んだとき、許せなかった自分を責め苦しんだ。
そして、今また母を幸せにできなかった自分を責めて苦しんでいる。
かわいそうな私自身を許してやらなければならないのに。
わたしをいやす人は私自身しかいないのに。
なぜ、父が夢に出てきたのか。夢の中で私は父にやさしかった。
私を楽にしてほしい。
私は悪くなかった。しかたなかった。

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