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カマキリという生き物

カマキリに感じた恐怖

私は畳の上で扇風機を浴びて寝っ転がっていた。網戸の外側にはウスバカマキリがしがみついている。気になって起き上がり、手で軽く網戸を叩いてみた。振動を与えれば、カマキリが慌てて動き出すと思った。だが、カマキリはカギヅメでしっかりと網の目しがみついている。私はそいつの胸部のあたりをめがけて指先で網戸を強くはじいてみた。だが、全く離れようとしない。網戸を指先で何度も強く弾いてみたが全くひるむ様子はなく、自分の居場所としてしがみ続けていた。私は再び畳の上に寝っ転がった。

それから15分後に、私は庭先に出ていた。そして、縁台のある畳の部屋の窓際に立った時だった。それまで網戸にしがみついていたカマキリが急にジャンプをして、垂直に2mほど羽をばたつかせながら私のシャツの胸部に飛びついてきた。私はカマキリの存在を忘れており、唖然として全く動けなかった。指先ではじかれたことをずっと根に持っていたのだ。カマキリの恨みが自分に向かってきたことがショックだった。そして、私は慌ててそのカマキリを手で払いのけた。
人間にとってカマキリの力など大したことはないが、小動物にとっては身動きが取れなくなるほどの恐ろしさがある。オオカマキリやウスバカマキリなどの鎌の力が強く、自分より大きなネズミやハミングバードまで襲ってしまう。つかんだら放さず、あのオチョボ口の上顎で、ひたすらにムシャムシャを嚙み砕いていく。

かつて、私は小学生の時にオニヤンマに糸をつけて引っ張って遊ぼうとした時があった。オニヤンマは糸で引っ張られると怒りだし、何度も私に噛みついてきた。私は逃げ回り、恐怖の思い出になっていた。今回は、そのオニヤンマの怒りを思い出させるほどの衝撃だった。肉食昆虫は怒ると怖い。冷酷に生物としてのリアリティをぶつけてくるのだ。

オオカマキリ


オスがメスに食われるということ

カマキリはその種類にもよるが、交尾の最中にオスがメスに食われてしまうことがある。背中にオスが乗っていても獲物だと判断すれば、メスはその頭部をカマで挟みながらかじりつく。触覚が触れれば相手が同種であると認識するらしいが、オスはうまくやらないとただの獲物となってしまう。

オスを捕食

オスは、頭部を食われても交尾を続けられるようにできている。指令を出す神経節は頭部以外にもあり、交尾器を司る神経節は指令を出し続けている。オスは頭部を失うことで逃げるという判断ができなくなり、ひたすら交尾だけを続けることになる。

カマキリのメスはオスを食べることで2倍の卵を産めるらしい。つまりオスは食われることで子孫たちの栄養となっている。だが、オス自らが積極的に食されることを望んでいるわけではない。大抵は、交尾を終えてメスの背から離れ、他のメスや獲物を求めて立ち去っていく。

飼育ケースの中は空間が狭い。そのため、オスは俊敏に動けずにメスに食われてしまいやすい。野外の場合、交尾中にメスがオスを食べる割合は13~28%でしかないという。だが、そのデータ採取はどのように行われているのだろうか。

観察者たちは野外で交尾中のカマキリたちを探し出し、その場で目視を続けて観察するのだろうか。交尾には数時間かかり、長くて6時間以上の時もある。場所をマーキングして時間を見計らって再び訪れるのか、定点カメラ等で撮影をするのだろうか。観察データをたくさん集めて統計を出すというのは、なかなか大変な作業である。

オスのカマキリが自然界でいきなり食われるケースは少ないとしても、それでも交尾の最中に食われてしまうことはある。では、オスは何回交尾に成功して、何回目で食われてしまうのだろうか。食われずに、最後に自然死するオスの割合はどの程度いるのだろうか。疑問は尽きない。個体差があって、そこまでのデータをとることが実際には不可能なのかもしれない。

学者の出したデータをそのまま信じてしまいそうだが、実際に観察できる状況というのは限られており、まだまだ未知なところがたくさんありそうである。機会があれば、また昆虫について確認をしていきたいと思う。


<参考>

『完訳 ファーブル昆虫記 第5巻 下』  273,274頁 2007年7月25日 第一刷発行  (著) ジャン=アンリ・ファーブル 株式会社 集英社

「実はすごい、知られざるカマキリの秘密」
株式会社 日経ナショナル ジオグラフィック 

CC BY-SA 3.0  File:Ookamakiri.JPEG by Σ64
CC BY 3.0 File:Mantis Tenodera aridifolia01.jpg by Apple2000



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