まだ

ノスタルジーを誘う看板

ネオンの切れた出入口

あせた光が射す朝の繁華街


乾いた砂が風に巻き上げられて

渋柿をかじった口の中みたいな

痺れる瞼に安い色が躍る


駄菓子の味を覚えていますか

色違いのガム

香りばかり違って

実は全部同じ味

いま食べたってコーラの味がするのに


空の色を覚えていますか

集めたカードやゲーム

楽しいことがいっぱいで

見上げる余裕もなかった

いまは空ばかり見ているというのに


出会ったきっかけを覚えていますか

おばあちゃんと出かけたお散歩

拾ったボールが確かきっかけ

空気の抜けたぺこぺこのボール


別れたきっかけを覚えていますか

きっかけもなにも

なんとなく切れた縁

痛みもなにも残らないまま

思い返すと寂しくなれそうなくらい


空の色が目について

期待もしていないけど

道は別れ僕は帰る

青い看板が待つ町へ


角を曲がり懐かしい顔

またねと別れた辻の向こう

記憶をつづめる一瞬

コーラの香りがよみがえった


懐かしい僕を覚えていますか

団子を作った日陰の砂場

剥がれた看板の裏

いつでも子どもの繁華街だったのに

いまもこんなにさびれているのに

まだこの町を覚えていますか


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