南国でおやすみ

扇風機が回った

ぬるい風が回って

ここは南国の陽気

昼下がりの窓とカーテン越しの光

まだ少し眠い

まどろむ前に少し息をする

息を吐く

脳裏に青空が浮かぶ

じんわりと眼球が痛む

涙は出ない

おやすみもなく

境もなく

真空に吸われるように温度のない夢へ


滲む汗に鼓動が上がる

背中が温かい

湿った部屋着に扇風機の風が当たる

濡れた肌をこする

涼しくはない

ここは南国の夕方

こめかみの汗が風を湿らせる


あのね 夢を見たんだ

喉が渇いて

なんだか頭痛もする

どんな夢かも覚えていない

聞いてくれよ

話したいけど

思い出してしまいそうで

まぶたの裏をのぞき込めない

薄い胸に痛むほど綿を詰められて

涙が出ない

カーテンから向こうは閉ざされて

おやすみもなく

境もなく

枕がいやに沈黙する


重たい頭をぶら下げて

扇風機を止める

ここは南国の夜

波の音は耳の中で

甘い匂いは脳の奥で

目を開けるのは億劫でも

眠るのは少し飽きて

飽きて

少し もう飽きた


明日の南国を待つ前に

もう一度真空の夢を見る

その前に

波の音がする前に

どうか外に返してくれないか

エアコンの風が吹く南国の部屋

あなたが見える冬の外に

連れ出してあげるから

ぼくを 連れ出してあげるから


電話が鳴る

汗がさっきより少し

少し 冷えてきた

境をつくる

おやすみが聞こえてくる


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