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綴流・アイドル短歌のつくりかた

 インターネットでアイドル短歌を詠んでいます。アイドル短歌というのは、アイドルに関すること・アイドルに関する気持ちを詠んだ短歌のことです。
 短歌に関しては、誰かに師事したりどこかに所属したりということはなく、自己流で試行錯誤しつつやっています。「5/7/5/7/7」のかたちが(概ね)守られていれば、たぶんなんとなく短歌だと思います。ぶっちゃけ、気持ちがあふれて「5/7/5/7/7」になったらきっと短歌です。
 私がどのように短歌を詠んでいるかという話なのでどれほど参考になるかわかりませんが、推しや担当がいる方は是非いっしょにその気持ちを短歌にしましょう。
 ※あくまで綴流のアイドル短歌のつくりかたであり、アイドル短歌をつくる一例です。こんなの違う!と思っても石は投げないでください。

 私が普段詠んでいるアイドル短歌(の一部)はこちらからどうぞ。なお、普段ははてなブログに掲載しています。

①題材を見つける

 アイドル短歌を詠む時点で題材は決まっているのでこの手順は不要ですね。題材は「アイドルに対する思い」です。私は「アイドルに対する思い」を詠んだ自分の短歌をアイドル短歌と呼んでいます。
 アイドル側の気持ちを詠むことでアイドルに対する思いを表現することもありますが、ここではとりあえず「アイドルに対する思い」としましょう。

 例として、私の愛するアイドル・NEWSの加藤シゲアキさんへの「真面目なところがめっちゃ好き」という気持ちを題材としてこの先を展開させていこうと思います。真面目で真摯で優しい人なんです。とても素敵な人です。

②(言葉を)インプットする

 インプットなきところにアウトプットはありません(多分)。
 アイドル短歌なので、アイドルに対する思いがインプットともいえるのですが、私としてはアイドルに対する思いは「題材」という位置付けです。その題材をいかに美味しくするかがインプットしたものに関わってきます。
 インプット、なんでもいいです。(言葉を)と書きましたが、短歌を詠むということは最終的に言葉になるのでそう書いているだけで、本を読んだりしなきゃいけないわけではないです。勿論、本を読んだり誰かの短歌に触れることもいいと思います。感度の高いアンテナをもって世界に触れることがインプットです。
 映画やドラマ、アニメを見るのもいいと思います。漫画でも絵画でも。主人公が悲しいときに空がめちゃくちゃ晴れている描写がある作品だったら「この抜けるように青い、雲一つない空が逆にむなしいな……むなしいって漢字で書くと『空しい』だもんな……」って思ったりする、そういう言葉の種のようなものを見つけると、いざ短歌をつくるときに活きてくると思います。映画とか観ても「面白かった」で終わっちゃうな~って人は「どこが面白かったか」「なぜその場面が面白かったか」「どの台詞にぐっときたか」を考えるだけでも違ってくるかと。
 単純に、気に入った言葉を集める、というのもアリです。世界には言葉が溢れているので、「これいいな!」と思った言葉を拾っておくと短歌を作るのに役立ちます。なんでもいいですよ、「金魚」とか。「晴れた日の傘」とか。自分の心がぐっときた言葉をどこかで使ってみたいという欲はないですか?私はめっちゃあるので、そういう言葉をストックしています。

③題材に合うインプットした言葉をさがす

 あるいは、インプットした言葉に合う題材をさがす。どっちのパターンもありえます。題材もインプットした言葉も、どちらも複数あるので、互いにマッチするものをさがす、という工程です。Twitetrで時々短歌のお題を募集したりもしていますが、それはインプットの部分を募集して私のなかにある題材とマッチさせる、という手法で詠んでいます。
 今回は題材を絞っているので「題材に合うインプットした言葉をさがす」のほうで考えていきます。インプットした言葉のなかから、題材と共通点をもつものをさがします。題材を言い換えたらその言葉になる、というのもあると思います。

 ②の項では例として「青空」「金魚」「晴れた日の傘」等を挙げました。「抜けるほど青い空が切ない」というのは私のめちゃくちゃ好きな概念なのですが、いま題材として挙げている「真面目なところがめっちゃ好き」とは合いませんね。また別の機会に使います。「金魚」は私にとっては「不規則な動き」であったり「鉢に囚われた不自由さ」を思わせるので、これも今回は合いません。では「晴れた日の傘」はどうでしょうか。腫れた日の傘、なんとなく真面目そうじゃないですか?朝の天気予報で雨が降るって言ってたのを聞いていた人が持っている傘なのかも。真面目ですね。こういうこじつけが大事です。
 「金魚」も、きれいに掃除が行き届いた水槽と金魚の光景を想像すると、その水槽の持ち主は真面目なのかなと連想できます。大事なのはどうこじつけるかです。こじつけられればなんでもアリです。
 ただ、短歌を見た人が「あるある!」と思えるほうが比喩として使いやすいかもしれません。そっちのほうが言葉数を割いて説明せずとも伝わるので。でも、ひねりがきいた比喩を見ると「この視点はいいぞ!」ってなったりもするので、一概に「あるある!」だけがいいとも言い切れませんが……まずは「あるある!」と思えるラインから始めていくのがいいと思います。

 余談ですが、ひねりの効いた例としては「アイドルという職業」という題材と「蟹」という言葉を結び付けたりとか。ちなみにこれらで詠むと

 内臓も美味しくどうぞ殻以外食べられるでしょ 僕はアイドル

という短歌が生まれたります。蟹は殻以外食べられるという話を聞いたことがありますが、アイドルという職業もそれに近いものなのではないかと思いました。残酷さとえぐみもあり、いい短歌ですね。私のお気に入り短歌です。余談というか自慢ですね。えへへ。

④とりあえず「5/7/5/7/7」のかたちにする

 さぁいよいよ短歌のかたちにしていきます!
 「真面目なところがめっちゃ好き」という題材と、「晴れた日の傘」という言葉を使うことにしました。先程の、晴れた日に傘を持っている人は真面目だな、という連想から広げていきます。まずはそれを「5/7/5/7/7」にしてみましょうか。

 晴れた日に傘を持って歩きそうな真面目なところがすごく好きです

こんな感じか。だいぶそのままですが、とりあえずそのままでいいと思います。
 多少の字余りは大目に見ましょう。ぴったりおさまっているほうが奇麗に感じることが多いですが、字足らずや字余りが個性として光ることもあります。まぁこの後いろいろ変わっていくのでこの段階ではそんなに気にしません。④はブラッシュアップするための叩き台をつくる工程です。

⑤ひねる

 ここが一番楽しいところです!今さっきつくった「5/7/5/7/7」のかたちをひねっていきましょう!勿論、「5/7/5/7/7」の時点で短歌としてのかたちになっているので完成としてもいいです。でも私はひねりたいんだ。
 私はストレートな短歌よりひねりの効いた短歌のほうが好きで、とにかくひねります。今回は題材も使っている言葉もストレートなので、是非ともひねりたいですね。ひねることによって、人の心に引っかかりやすい短歌になるのではないかと思っています。少なくとも私の心には引っかかります。なので、自分の心に引っかかるまでひたすらひねひねします。
 まずは「すごく好きです」のところからいきましょうか。ここが一番ストレートですからね。「好き」と言わずに「好き」を表現できたほうがひねりが効いていて、個人的には惹かれます。

 晴れた日に傘を持って歩きそうな真面目なところに惹かれてしまう

いま「惹かれる」という言葉が出てきたので当てはめてみました。まだストレートですが、「~てしまう」という表現が「自分の意思ではどうしようもなく好き」という印象も出していていい感じがしますね。
 では次に「晴れた日に傘を持って歩きそうな」の部分をひねっていきましょう。「~しそうな」という表現がちょっとストレートなので、もっとひねりたいですね。
 雨予報の日に持つ傘といえばどんな傘を連想しますか?そうですね、折りたたみ傘です。今までの短歌では大きい傘か折りたたみ傘かわからなかったので、今回は折りたたみ傘に限定してみましょう。そのまま「折りたたみ傘」という言葉を使ってもいいですが、ここでもひねりを入れたいので「折りたたみ傘」を使わずに「折りたたみ傘」を表現してみます。

 晴れた日の君の鞄にひそんでる傘

なんてどうでしょうか。折りたたみ傘になりましたね!この部分で「5/7/5/2」まで使いました。残りは「5/7」です。さっきの「惹かれてしまう」を活かして続けてみると、

 晴れた日の君の鞄にひそんでる傘が見えてる 惹かれてしまう

みたいな。でもまだ完成とは言い切れない……まだいける……(この辺は感覚です)。「見えてる」って言ったけど、アイドルの鞄の中なんて見たことないわけだし、あんまりしっくりこないな……

 晴れた日の君の鞄には傘 雨が降らなくたって惹かれてしまう

「見えてる」という言葉を省いて曖昧にし、代わりに「雨予報を気にしてるんだね、たとえ雨が降らなくてもその真面目なところが好きだよ」という気持ちを織り込みました。「5/7/5/7/7」で奇麗に区切れるのではなく、「5/7/2・3/7/7」というかたちになりましたね。こういうのもアリだと思います。私は好きです。
 でも言葉のチョイスがちょっとわかりにくくなったような気もする……どうして雨が降らなくたって惹かれてしまうんだろう……

 晴れた日の鞄のなかに傘 夜の予報を気にする真面目なあなた

今度は「惹かれてしまう」の部分をなくし、「夜に雨が降るという天気予報を気にしている真面目なところが好きだよ」をピックアップしました。「雨」という言葉もなくしてみました。「雨が降る」と言わなくたって「傘」と「夜(この後)の予報」という言葉でなんとなく想像できるので。
 途中で脱落した「真面目」という言葉が復活しました。そういうこともあります。ひねった結果出てきた表現(今回だと「惹かれてしまう」)がなくなることもあります。そのあたりは臨機応変にいきましょう。一度思いついてしまったからといって、変えられないなんてことはないので。どんどん変えていきましょう
 また、「あなた」という二人称を使いたかったので前半の「君」をなくしました。「中」ではなく「なか」なのは私の癖(「くせ」というよりは「へき」)です。「晴れた日の鞄の中に傘」だと漢字が重いな~と思ったらひらがなにしたりします。表記も大事な要素なので、いろいろ考えたい部分です。
 この短歌だと「真面目なあなた」が好きだよと読み取れそうな雰囲気が出ますね。「好き」に相当する言葉がなくたって「好き」っぽい雰囲気は出るんですよ。見る側の気持ちによっては「そういう真面目なところが嫌」ともとれるかもしれないけど、そこはまぁ受け取り手の判断に委ねます。別に意図通りに受け取られなくても私はいいと思っているので。人の心はコントロールできないわけだし、意図通りに受け取らせるのは難しすぎるから。ある程度は委ねます。

 ちなみに私がひねる過程で意識しているのは「どこを省略できるか」ということです。短歌には文字数の制限があるので、そのなかに言いたいことを詰め込むとなると、何もかもを説明するわけにはいきません。ここは省略できる、あるいは別の言葉に置き換えられる、という部分を見つけて、違う表現にしていきます。ひねひねしているうちに納得のいくラインに辿り着いたら完成とします。
 それと「私らしい短歌かどうか」も割と重視しています。ある程度短歌を詠んでいると、表現や内容に自分特有のクセが出てくることもあるでしょう。私は先程例に挙げた蟹短歌のような残酷さを伴うものだったり、見たくなかったものを見てしまった気持ちになるような短歌を詠みがちです(個人的には「刺す」短歌と表現しています)。今回は題材が「真面目なところがめっちゃ好き」なので刺す要素がなく優しい短歌になりましたが、それでもどこかさっぱりあっさりとした雰囲気が漂っていて、④の短歌よりずっと私らしくなっているなと思います。
 ということで今回はここで完成とします!できたー!

⑥完成!

 晴れた日の鞄のなかに傘 夜の予報を気にする真面目なあなた

 好きなアイドルに対する「真面目なところがめっちゃ好き」という気持ちを、「晴れた日の傘」という言葉を用いて短歌にするとこんな感じになりました。実際にそのアイドルが折りたたみ傘を持って歩いているかどうかは知りませんが(アイドルって車移動が多そうだからあんまり持ってなさそう)、あくまで概念やイメージとして表現したいと私は思っています。今回で言えば「真面目さ」の概念やイメージを別の言葉に置き換えている。短歌とか詩とかってそういうものだと私は思います。
 個人的な信条なのですが、「事実をそのまま詠む」のはあんまり詠まないです。短歌にせずそのまま書いたほうが伝わるような気がするので、短歌にしなくてもいいなって。短歌にすることの意味って、受け取る側がどれほど想像を広げられるか、だと私は思います。私が今まで詠んだ短歌を見るとわかると思うのですが、基本的にどれも抽象的にできています。その抽象的なところが、受け取り手によっていくらでも想像が膨らむ余白となります。私はそういう短歌が好きです。あくまで綴流のアイドル短歌のつくりかたである、と最初に前置きした意味が伝わりましたでしょうか。

 私の場合は①と②は日常的にやっていて、短歌を詠みたいなと思ったときに③から始め、④で既にいくらかひねりを入れて⑤に臨むことが多いです。たまに④で完成したものが出てきたときはめちゃくちゃ気持ちいいです。蟹短歌は④の段階で完成してました。

 というのが綴流・アイドル短歌のつくりかたです。
 おうちにこもりきりでなかなか推しにも担当にも会えない今だからこそ、アイドルへの気持ちを詠んでみてはいかがでしょうか?

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