見出し画像

こちら、東へ向かう

薪を背負って歩いている秋の光の少年とすれ違ったあとに、知らないバスが横を通り過ぎ跡に落ち葉がカラカラと舞った。タイミングよく吹いた秋の風は昨夜の月の無表情を吹き飛ばすみたいに限りなく軽く乾いていて、どこかのスタジアムから飛んできた野球ボールはまだ街と湖の隙間に寝転がっている。

季節の変わり目に違和感を覚えて野球ボールを太陽の背に向かって投げ込む。薄汚れた白球は秋空天高い宇宙へ向かい餌を追い求める鳥たちを追い抜き、そのまま消えていった。均衡な距離を保って黄緑に揺れる竹たちは凛々しく大地に刺さりただ青空を見つめている。

「いつ死ぬかわからないからーって言う人ほどさ、なんか全然死なないなぁー?」「Bluetoothの意味、知ってる?」秋の黄金の砂漠をひたすらに彷徨う小さな集団の後方で彼は仲間のひとりに二つの質問を持ちかけた。彼らの集団はみな、真っ白で立派な角をその小さな頭にこしらえている。

「ふむふむ。ここには湖の匂いが少し残っているな」仲間は目を閉じながら透明な青空を駆ける羊のように砂漠の風を嗅いでいた。仲間の答えを当てにしているわけじゃなかったけれどそののんきな声を聞いて、彼は少し笑った。

「秋に価値があるとすれば秋であること。逆も然り。集団後方、約一名、少し遅れる」と彼は集団に伝えた。そして、先取りなんてダメなんだよ、ほんとうに、と誰にも聞こえない声でつぶやいた。彼は瞼の裏に丸みから遠く離れた星を思い浮かべ、ああ帰ったら新品の絵の具で、途方もなく新鮮な色で、それはそれは愉快な絵を描いてやろうと思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?