パグの日記(4)

二次関数、放物線、それにノンストップ自動料金収受システム……。あいにく僕は文系脳でもしかすると暗記だけで生きてきた人間かもしれない。だからノンストップ自動料金収受システム(以後ETC)は使いこなしたくても使えないし通過するときはいちいちおじさんの前に丁寧に止まって料金を手渡ししている。もしかしたらその区切りでの振る舞い方、いやそのルート(rootではなくroute。)に入ったから僕は文系脳なのかもしれない。たとえどれほど効率的に進める道があるとしても僕は結局non-ETCなのだ。そして今回で言うと、僕は電動キックボードを選んでいたのだからそもそも高速道路にさえも乗れない。今のところ。だからたぶんパグ男は二次関数の放物線という概念を用いて電動キックボードに乗ってきたもしくは文系脳である僕に対してなにかを繋げようとしているのだろう。それは美しい比例反比例のようなものなのかもしれないし、どこかの軸と交わろうと彷徨いつづけているものなのかもしれない。もしくはそれ以外の単に狂ったもの。

パグ男とその目の前に浮かびつづける方程式について左脳と右脳を乱雑に使用してしまった僕の頭は疲弊していた。脳を満たしていた液体が減って一部分が砂に埋れていた。だってその時の僕は、そもそも二次関数の放物線のイメージなんて久しぶりに味わっていたからね。高校を出てからはあの形をさっぱり見ていないし使うこともなかった。というか二次関数の気配があったとしても僕自身は気づいていないか無意識に離れていた。だから今回急に放物線が出てきてETCが出てきて、変なエネルギーを変な体勢で使ってしまった。なんとか対処しきり(しきったかはわからないけれど)無事に料金所を進み抜けることができたのはよかったけれど、その瞬間熱意というものが薄れてしまった。だからその後まわりにどれだけヒントになりそうなものがあったとしてもなんだかガラクタのようなものばかりだなとしか思えなかった。

酸素。僕は松の木の陰で目を閉じて一度深く息を吸い込んだ。そしてゆっくり息を吐いた。繰り返した。二度、三度、四度……。仕切り直し。僕はパグ男に見つからないようにちらちらとパグ男の姿を確認した。相変わらず空中に美しい放物線を描いている。たぶん大丈夫だ、水色のハンモック、パグ男、放物線。僕は松の木の陰から一歩踏み出し、水色のハンモックに近づいていった。僕は質問してやる、司会者に遮られようとも。「どうして空中に二次関数の放物線のなんて描きつづけているんですか?いやどうして水色のハンモックにゆらゆらしているんですか?いやそもそもあなたはパグ男なんですか?」砂浜には僕の足音と変なリズムで鳴る太鼓の音だけが響き渡っていた。パグ男はまだ放物線を描いていて僕に気づいた素振りは見せなかった。

そしてあと数歩でパグ男の目の前に到達しそうになったとき、パグ男は俊敏にこちらの方を向きそのパグパグした顔を僕の視界の中心に座らせた。何本ものおでこのしわ、力なく垂れ下がった眉毛、くりっとした潤いのある黒目、とにかく大きい鼻、それらは集合したはいいものの全員がなにか戸惑っているようであった。そしてその個物たちが織りなす一つの顔はあらゆるものごとに対する困惑の象徴みたいに僕の目に映っていた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?