月が落ちる理由

あなたは自分に酔っているようにしかみえない、そんなことを言われたよ。そう呟きながらしくしく泣いていた小さな青虫みたいな僕の友だちに、あの子はこう笑いかけた。

「偽りを突きつける剣は果たして真剣だろうか?それで血が出るだろうか?なあ、痛みを感じるのは一体どちらだと思う?」

青虫は泣くのをやめた。
それを確認したあの子は続けてこう言った。

「月が落ちたらどうせみんな同じ所へゆく、それも幼児のように。だから気にしないでほしい、気にしないでほしい、本当に気にしないでほしい。特に、君には、だ」微笑みのあいだにみえたあの子の瞳は夜の川にきらきらと光る星屑のように冷たく澄んでいた。

雲のない湖岸沿いで眠りかけていた僕はあの子のことをふと思い出した。空には純白な三日月が浮かんでいた。真面目に欠けた白い月はすやすや眠りにつく無責任な街と波の音を忘れた湖をじっと見つめていた。少し吹いた夜風に草木が揺れる。風は遠のく人影のように冷たい。あの子は元気だろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?