やっかいな季節には大きなあくびを

二日酔いの朝に秋の澄み切った風を深く吸い込むと二つの肺に小さく綺麗な紅葉が咲く、ような感じがした。新しい紅葉の香りが鼻を抜けていって街のスタイリッシュビルのすきまをぐるぐる周遊してブーメランのように帰ってくる。まるで賢い鷹のようじゃないか。飼おうかしら。夕陽に静かに燃えるマンション・マンションはごっつい焼き芋に見えて、なんだかこれは夏の終わりってやつなんだろうか?それとも秋の背中が見えるってやつなんだろうか?って思った。

「夏」と「秋」のあいだの季節のことを夏の終わりとか蝉の声が聞こえないとか秋の背中が見えるとか秋の始まりとかいうけれど僕は「夏」と「秋」のあいだの「夏の終わり」と「秋の始まり」のあいだにはまたもうひとつ別のなにかがあるんじゃないか?って思う。そしてもし名前があるとすればそこには「夏」とか「秋」とかそういう単語は入っていないと思う。なんというかしんとしているだけである。

蝉も空も海も青も鳥も虫も芋も赤も皆なんか休憩している。たぶんそんなところでは我々はせっせっと動き回るんじゃなくてひとりでもしくは友だちと、古びたベンチに座って頭の後ろに手を組んで大きな湖の遠くのほうを眺めて「はぁ、まいったなぁ……」とつぶやくのがベストなんだと思う。

もちろん湖みたいに大きなあくびをしながら。

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