二〇一八〇一自(30)終

カーテンを開けると光に照らされた無数の小さなホコリたちが姿を現わし漂いはじめる。重力を失った空間で浮遊する宇宙飛行士のように。彼らは自分の意志ではなくただ漂う状況になったから漂っている。

時計は正午を少し過ぎた頃をさしている。エネルギーを振りまく昼の陽の光に誘われ、部屋から一冊の本を持ちだし、庭に面しているベランダに出る。今日の空は見えるかぎり果てしなく青い。初めての運動会の日のような晴れ晴れしい空は、その青さで僕を包んでくれ、僕は暖かさを身体の底から感じている。周りには誰もいない、人の気配もしない。
目を瞑ると、僕は広い草原で寝ころんでいる。静かに吹いている風が葉っぱをゆらし雲を流している。僕は寝転んでいる自分の姿をどこか離れたところからみている。向こうにいる僕は僕に気づいていない。風にゆれる葉っぱたちは控えめな緑や鮮やかな緑をそれぞれに抱え、一人一人が自由に音を奏でている。近くには、湖と川がある。すべてを透きとおすような湖の水面は、雲の真っ白さを歓迎し、自らの姿を澄んだ青空に変えている。それは真っ暗な宇宙で燦然と青く輝く地球の美しさのようである。穏やかに流れる川は、太陽の光を全身で浴びている。鳥たちののどを潤わせ、石や岩を磨きあげ、高いところから低いところへと、誰もいないところから誰もいないところへと流れつづけている。息を思いっきり吸いあげると冷たく澄んでいる空気が全身のなかに入りこむ。この瞬間、身体は浄化され一切の線が失われる。

そうしてまた目を開けると見覚えのある景色が広がる。今はただ、鳥の声、風の音、草木が穏やかに佇んでいるだけである。目の前の木には一つだけ花が残っている。上から順に咲いていった花たちは一週間もたつと、その順にぽたっぽたっとかすかな音をたて、苔が一面に敷かれている土に帰っていく。太陽の光を仲間に譲りつづけ最後一人残された花は、仲間が落ちていくことをどうすることもできず、悲しさのなかになにか真っ直ぐなものをもった視線でただ空を眺めている。今、この花は、太陽の光を思うままに浴びることができる。けれどそこにはもう、今までともに生きてきたまわりの息づかいは聞こえてこない。どうすることもできず、どうすることもなく、なにをしてもなにかが起こることもない。そして、ただなにかにひっぱられるように、自ら命を絶った。

一匹の鳥がすべての花の命を見届けたその木にやってきた。一本の枝に止まりキョロキョロと辺りを見回し声をあげた。そしてまた、どこかへと飛んでいった。
波一つない感情が漂う。陽に照らされた文字に目を移し、平穏な世界に寝ころぶ。


少し眠ろう。


夜、部屋の窓を開けていた。明かりを求め電気をつけると、窓から虫がいっぱい入ってくる。次々と、いっぱい入ってくる。


そんなことはもちろんないけれど、

なんだか、

すべてが、

最初から決まっていたような気がする。






けれど、最後にこれをつけたそう。





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楽しい。








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