パグの日記(1)

あるとき初めてハンモック浜に行ったんだけれどそのことをここに書きたいと思う。まず、ハンモック浜について僕が知った経緯だけれど、これは当時ハムスターとカメを飼いながら一人暮らしをしていたー今その二つの命がどうなってるかは知らないー大学時代の友人から教えてもらった。ハンモック浜はまだまだ流行ってはいないが今はまだ知る人ぞ知る場所だ、でもいずれみんなが知ることになるとその友人は言っていた。僕は時々両生類みたいな動きをして人を驚かす少し変な友人に感謝しつつも聞いたこともない浜が実際に存在するかどうかは月の裏側にNASAの基地があるかどうかぐらい疑っていた。

当然のように友人と別れた後すぐガラケーをポッケから取り出し「ハンモック浜」についてググってやった。そしたら意外にも検索トップに出てきて、しかもWikipediaにまで載っていた。一時期Wikipedia推進協会にも所属しようか悩んでいた僕は無意識のうちに指を動かしていた。ウェブ版のWikipediaからアプリ版のWikipediaへ画面は切り替わった。


「ハンモック浜が開かれるのは夜の8時から9時だけ。いい旅を」



Wikipediaに載っていた情報はそれだけであった。これはWikipedia界一の薄情報と言ってもよかろうと僕の心の隅にまだ生きている爺ちゃんが呟いた気がした。けれど僕は気づいた。そう、これは解釈自由だと。これはハンモック浜という未知なる世界を自分の目で確かめ自分の頭でつくりあげることができる果てしのない世界なのだと。爺ちゃん、僕は少しハンモックに揺らされてくるよ。

僕は早速次の日電動キックボードでー僕は当時自分の車を持っていなかった、いや今もだけど。言い訳じゃないんだけれど当時はUberが主流であったし今はChopelyが主流だからねーハンモック浜へと向かった。道中はもう日が暮れていてお地蔵さんの目も光らず特に目にとまる景色や建物はなくてただハンモック浜の看板だけを頼りにハンドルを握っていた。さすがにWikipediaに載るぐらいなのだから看板ぐらいどでかいものを用意しているだろうと決めかかっていた僕が馬鹿であったとわかるのはこの一行後。ハンモック浜の看板は街灯のない細い一本道ー海沿いのけれど風を感じない異様な落ち着きをみせる道だったーの行き止まりに友達ん家の表札より少し大きい程度の焼き杉の上になんの装飾もなくただ青い字でハンモック浜と書かれていた。いやいやこれは見えないよ、と僕は呆れ笑いながら顔を横に向けると砂浜にいくつかのハンモックが見えたんだ。


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