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ヤドキングはいったいなにを勉強しているの

秋の霜が山の奥の寂れた駅にひらひら舞い降りた夜メタモンがメタモンに出会い月の光の粒の大きさが曖昧になった。山の手前に眠る草原はきらきら光り夏休み初日に窓の外で無邪気に弾け飛ぶあの朝の陽射しをこっそりと思い出しているみたいだった。「季節が交わるためには交点を目的とするのではなくまず自分の季節を認識しなければならない」水辺を住処とする音楽家がそう言っていたことはできるだけ忘れたくはない。

✴︎

「どうして空は青いの?」
「答えたくない」
「そっか」
「どうして生きものによって寿命が違うの?」
「答えたくない」
「そっか」
「どうして人によって幸せが違うの?」
「答えたくない」
「そっか」
「どうしてみんな幸福なのに不幸そうに見えるの?
「……

✴︎

北に南に絡まる青い空に無責任で臆病な白い雲は、遠い海に真珠を求めた哲学者の白髪の上を流れ十日ぶりの森の雨が烏の群れに命の輝きを与えている。眠ることを互いに忘れ繊細な自意識を捻り潰し合う街の人々はそれを見てどうして生まれもった不条理とやらを証明することにそんなにこだわるのだろうと不思議に思った。

夜空の底で火炎放射を散らしていた神さまがこの星のことについて「うーん…?」と小首をかしげた日、メインの物語より解説のページ数が多い小説を大切に抱えた少年が池の中の山椒魚をじっと見ていた。少年にはその大きな山椒魚が自然死に含まれない死について考える立派なナマケモノのように見えて、星が巨大な光に飲み込まれるまで少年はその場から動くことができなかった。

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