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朝焼けニアリーイコール

「気がつくと遠い海から遠い空へと旅する太陽が人々の内臓を照らしていた。巨大な星の焔が内臓を照らすことの意味はよくわからなかったが、とにかくその瞬間、私はなぜかセロリを思い浮かべていた。あの苦くてまずいセロリ」

湖岸沿いを散歩しているとポケモンのコイキングみたいな顔をした奴が僕にそう言った。彼はウーバーイーツの配達の休憩中らしく木製の古びたベンチに座りながら短い煙草をふかしていた。彼の隣には美しく磨き上げられた小さな泥だんごがちょこんと座っていて澄みきった初夏の陽光をきらきらと反射させていた。


コイキングの声を無視して家に着いたとき僕の頭の中には新鮮なセロリの葉が芽吹いていた。朝の空に光る鳥の声のように鋭くみずみずしかった。ちなみに僕はセロリが大の苦手だから、セロリを食べる河童とくら寿司に行くのでもいいかなと思った。そこで地上人類の話でもしたいな。

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「君は河童のお皿を割りかけた、別に悪い意味じゃなくて」と昔僕に言った同級生(彼の目はいつも物思いにふける鷹の目のようだった)は今は銀行で働いているらしい。最近はテレワークを頑張っているのかな。次会えば、秋の蝉は可哀想とでも言うのだろうか。それとも栗色の猫が一番かわいいとでも言うのだろうか。なんというか、ゴミが散る記憶の海は星空のようだな。

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クロワッサンがフランス語で三日月を意味すると知った後、夕暮れのカモメのようにまどろんでいた彼女はどこにいってしまったのだろうか?彼女はよく夏の昼下がり水平線と競争するようにのびた白い雲を音符に見立ててピアノを弾いていた。彼女の旋律は決まって湖の上に穏やかな波をつくりだしその上を青く煌めく夏の風がつるりとすべった。風は緑鮮やかな樹々を揺らし最後には森の奥の鉄塔に静かにぶつかった。そういえば、彼女のLINEのプロフィール画像はいつも灰色だったな。



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