猫の渦を見かけた夜のこと

金木犀の森で猫が渦のように駆け回っていた。

僕は鳥(カラスみたいなスズメみたいな鳥)になって彼らの上空でその流れの方向に自然流されていた。しばらく何も考えず森に渦を生み出す彼らを見ていると僕はもしかすると森も空も星も街も同じ風が吹いているのかもしれないと考えついた。そしてそのことをどこかへんてこな研究者にこっそりと伝えたくなった。

僕の翼(左のほうの翼)には猫じゃらしが引っかかっていてそれが今にも落ちそうで、そう気づいた数秒後、それはひらひらと落ちた。のんきに猫の渦に吸い込まれていく猫じゃらしの姿を見ているとなんだかこれはこれでよかったなと思えた。

今夜の風はぎりぎり息が白くならないほどにひんやりとしていて、月の光は人類の想い出のように森の向こうまで伸びていた。

✴︎

焼き芋の灰が残された川で太ったおばさんと青い河童が並んで釣りをしていた。僕は青い河童なんて見たことがなかったので(もちろん緑の河童も見たことなかったが)、それを初めて自分の視界に迎えたときは単なるレプリカだと思っていた。

僕は少し離れた所に生えていた大きな木にとまって彼らを眺めることにした。けれど疲れていた僕は気づかぬうちに眠ってしまったようで、目が覚めたときには蒼ざめた太陽が彼らと僕を照らしていた。そして僕はやっと気づいた。レプリカなのは太ったおばさんのほうだということに。

青い河童は僕のほうに手を振ってそのまま川へ飛び込んだ。なんとも少年がカナヘビを見つけたときみたいにステキな笑顔であった。太ったおばさんはまだ釣り糸を垂らしたままであった。

どこかの星が落ちてどこかの星が向きを変えればこんなことも起こるのだろうか。僕はかけ算を覚えさせられる小学二年生のように納得した。

猫の渦はまだぐるぐるしていた。

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