世界の真理は一匹のカモに
湖にはカモがたくさんいて、息を吸って吐いてカモたちを眺める、という一連の流れを僕は暇つぶしの第一手として、特にと言えるほどでもないけれどまあ気に入っている。
正月だからか、波の穏やかな砂浜では小さな子どもたちが凧揚げをしている。
両親はそんな無邪気な風景を優しく見つめ、時に大笑いしたり、時に写真に残したり。
カモはたまに数匹で陸まで飛んでくる。そして、草むらでもくもくと餌を探してもぐもぐと口を(くちばしを)動かしている。
きっとその辺をじっくり見たらフンがいっぱい落ちている。だから僕は空をトンビのように漂う凧を見上げる。
凧の上には一人の少年がちょこんと座っている。すました顔をしているのだけれど、小さな子どもたちのでたらめな操縦を必死に乗りこなしているのがわかる。
「きみは凧乗りが上手だねえ」
「いえいえ。それほどでもありませんよ」
カモが少し速度を上げ、すいすいと進む。
「きみはいつも凧の上にいるの?」
「いえいえ。今日の僕の存在は、凧揚げに夢中なあの子のおかげですよ」
カモは勢いをつけてバシャっと音をたてて潜る。
「あの子のおかげかぁ。世界の真理だねえ」
「はい。世界の真理でございます」
カモの頭は水中につかっているのだけれど、お尻は水の上に出たままである。
「カモはなにを探しているのだろう」
「探しものはだれにでもあります」
カモはまだ潜っている。半身は丸見えである。
「凧の上の少年と水に潜るのが下手くそなカモ」
「そんな感じですね」
「凧の上は気持ちいいかい?」
「ええ。とてもです」
カモは水上に顔をみせた。くちばしには大きな鯛がくわえられていた。
僕たちは声を揃えて言った。
「わーお、鯛じゃん」
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