夕闇に鳴いたんだフクロウは

小さなフクロウが公園の大木の下に佇んでいた。大木は公園の中心に太く生えフクロウはその存在をまるで親のように、同時に兄弟のように感じていた。だから毎日欠かさずこの同じ場所にやって来て、何度もここから見える景色を眺めていた。そして季節は移ろうものらしいということをなんとなく感じていた。

けれどそれがこの大木とどう関係しているのかは考えてもわからなかった。雨が降った次の日、他のどんな日よりも考えが深くなるような気がした。大木の土に染み込んでいく水の行き先を翼をはためかせゆっくりと追いかけた。けれど雨は必ず見えないどこかへと消えた。強い風が吹いた。今度は必死に翼をはためかせ追いかけた。けれど風も見えないどこかへと消えた。まわりのなにもかもがそうやって消えた。雨と風がやむと空にはたいていどこまでも澄みきった青空が広がっていた。けれど大木の葉は徐々に失われていた。フクロウはその隙間から小さな鳴き声を高い空へと滲ませた。

冷たい風が吹いた。大木の葉が目に見えて消えていった。そのたびに今まで見えなかった向こうの世界の光が徐々に感じられた。けれどフクロウはその先になにがあるのかを探しに飛び立ちはしなかった。フクロウが生まれた森は広かった。けれど森の中ではなにかがいつも風となって一つ一つの木の葉を激しく揺らしていた。爽やかな朝日が差し込んだ日も美しい夕闇が森に染み渡った日も。フクロウはそんな森で自分の鳴き声を忘れそうになる感覚を何度も感じた。それが悲しかった。ある日フクロウはそんな世界から静かに逃げるようにこの大木の下にやって来た。けれどここも、たぶん、もうすぐ変わってしまう。

葉が色を変化させることは終わりを予感させる。大木はじっとなにもせずにそこにいる。フクロウは枯れ葉が砂の上に落ちていく様子をじっと見つめていた。枯れ葉は狭い公園に窮屈に敷かれた砂の上に一枚、また一枚と落ちていった。風が吹いても吹かなくても一枚ずつ、時として乱れながら地面に舞い下りていった。空と地のあいだの軋みをすり抜けていくその姿は優雅でもあった。けれど地面に着地すると動きを完全に失い力なく転がっていた。枯れ葉はしだいに積み重なり大木を支える世界の色を変えはじめていた。フクロウはその先を予感した。フクロウはまた悲しくなった。枯れ葉の目の前で静かな声が暗い夜空に消えた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?