ポテトサラダのジャガイモのような人

登校中、克哉はいつも右手を梅子の左肩にのせて歩いていた。梅子はいつも克哉の少し前を歩き、克哉の右手に自身の左肩を無条件で差し出していた。

僕は最初、克哉のその傲慢な態度になにしかしらの理由があって梅子は嫌々付き合っているのだと思っていた。たとえば克哉の父親が社長で、梅子の父親がその下につく小粒な平社員であるみたいに。

けれど、ある日先回りをして電柱の陰から二人の顔をよくみてみると、どちらも誇らしそうな顔をしながら歩いていた。なんだか花より男子のF4の中の二人、松前純平と松平道夫のような堂々とした歩きであった。いやまあ、克哉がそんな顔をするのは理解できる。でもどうして梅子まで?これは一体どうゆうことなのだろう?当時の僕が空を見上げるといつもこの不思議な問いーF2ーが飛び回っていた。

毎晩布団の中では、克哉と梅子のあの出処のわからない誇りが現れ僕の睡眠浴を邪魔した。朝食後の歯磨きの時間には洗面台の鏡であの二人の後ろ姿ー前に向けられている顔は必ずと言っていい誇りに誇った顔ーがずっと向こうへと歩いていた。そして歩いているくせにどこへも消えず、ずっとそこにいる。では、足踏みのようなものをしているのか?実は歩いていないのか?と何回も疑ったが、確実に歩いている。れっきとした生物の歩行である。でもここは鏡の中だから?そんなことは関係ない。この話は架空の僕の頭の中の出来事なんだから。ん?克哉と梅子は同じ学校に通う同級生である。それは確かだ。

ある日、学校のカラーテストを早く解き終わった後、時間を持て余した僕は消しカスを練り練りしてラクダの人形を作っていた。作り終わった後、眠気の砂に潜りチャイムの雨を待っていた。雲がもくもくと現れたころ、突然ラクダは砂にくるまる主人公「僕」に襲いかかって来た。最終問題はまだ残されているぞ、早く解きはじめろ、そう言いたげな高速足蹴りであった。最終問題?僕はすべて完璧に解き終わり、自分で赤ペン先生になりきり採点さえしていた。なのに、最終問題がまだ残っている?

ラクダの暴動によって目を覚ました僕は窓の外にちらりと視線をやった。ここ最近二ヶ月ほど雨が降っていないこともあり、グラウンドはポテトサラダのジャガイモが粉を吹くように砂塵を巻き上げていた。ポテトサラダのジャガイモ?机の上では、ここは砂漠だ、とラクダが静かに歓びのステップを踏んでいた。カラーテストは前の席に座る古茶山君に渡った。

次の日、梅子は一人で登校していた。おいおい、こんなことがあるのか、いやあっていいのか!昨日の歓びのラクダと共有したいほどの驚きに僕は自然、目を丸くしていた。これは千載一遇のチャンスである、克哉のバリアがない梅子などチャーハンのない中華料理屋じゃないか。縦に長い帽子をかぶらないシェフじゃないか。剛力彩芽にフラれた前澤社長じゃないか。下の名前が正義でなくなった孫正義じゃないか。僕はラクダのコブの上に飛び乗り逆立ちを決めた。太陽は砂漠を隅から隅まで照り上げていた。そして、僕は梅子にひとつの問いを浴びせた。放水完了。

僕「いったい君たちの誇りの表情はどこから湧いて出てくるんだい?」

梅子「あなたのその質問はどこから湧いて出てくるの?」

僕と梅子は、はっと気づいてしまった。なんだよこんなことに僕たちは時間を使っていたのかと。重しがとれた漬物のように生き生きと、実験室から解放されたマウスのように颯爽と、宝くじで一等を当てたゴールデンレトリバーのようにワンワンと、二人は同時に答えた。


「克哉だ」


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