落とし物日記

20××/11/20(天)14:17

僕はいま銀河列車(こだまだるま号◉号車◎番A席。白い駅発。)に乗っている。小中学校の修学旅行以外で銀河列車に乗るのは23歳にして初めてである。


車内は静かである。皆酸素カプセルで眠るように目を閉じていてあるいはミニiPhoneの別世界モードに脳内を変換していて現実世界は音の出せない空物体だけを預けられているような静寂さに深く浸されている。ここには誰かの夢のなかで眠っているような安らぎがあるけれどその裏にはこれから乗客皆共々死の世界へ向かうという目的が誰かによって隠されているようにも感じられる。


窓の外を眺めればー今ちょうど灰色駅に着くというアナウンスが聞こえたー白い県所有の山々、工場、田んぼの三点セットが流れていく。プライベート初銀河列車の僕にとってはこの列車はとてもとてもはやく通り過ぎているように思われる。だってもう灰色駅に着くと言うのだから、石石電車石石線中浜瓦山間に生まれし僕から言わせてもらえばこんなことはありえない。またミニiPhoneでマップを開きGPSで現在地のマークを見れば青い丸はずんずん進みやがりさっき窓の外に見たあの場所はなんていう名前であろうと見てみようと思っても進み続ける青い丸の逆側にマップをせっせと動かさなければならない。


けれど考えれば世界はこんなスピードで進んでいるように思われる。深く考える時間もなければ自分勝手に止まり続けることもできない、戻ろうと思えば自分の力を使いなにかに抗わなければいけない。乗らなければ遅れるしそもそも乗ろうとしなければ高速で走り抜ける列車を野原に寝転がって眺めるしかできないーそれもそれでいいのだけれど。そして乗った場合を考えると乗ったはいいけれど気づけば黒い駅なのである。なにをしても時間どおりに黒い駅なのである。いや人はとにかく黒い駅がやってくるのを待っているようでもある。きっと目的地に着けば銀河列車は運んでやったぞとすました感じでドヤ顔を見せてくるのだろう。


それはそれで目的地に効率よく着ければいいのかもしれないけれど黒い駅は別に目的地ではない。なのに一旦この銀河列車に乗ればそこに向かって僕はしがみついてー実際は少しかたいクッションの座席に身を預けてボーッとしトイレ休憩のために一度立ち上がるぐらいなのだけれどー運ばれるしかない。ボーッとしていたらもう着いてしまうしなにかしていても結局は同じ時間に着いてしまう。なにはともあれ運ばれそしてなにはともあれ降ろされる。そして次の列車を待つのである。


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