砂サンド砂
これはたぶん、よく晴れたお昼ごろに湖岸沿いの砂浜を卵焼き色のマイセグウェイで進んでいたときのこと。
遠くのほうに大きな石のような、なぜかいつも体の一部分を地上に出してしまう未熟な地底人の頭のような、関西出身敏腕弁護士のため息まじりのあれはよーわからんわ、を引きずり出してしまうような、そんな物体の影がみえた。
たぶんわたしだけだと思うけれど、わたしにはそれが人生の目的みたいにも思えた。
砂道に困りながらも老いたカメのようにのそのそと進んでいたセグウェイは
「たぶんあれはカッパだろ」と言った。
太陽に照らされた浜風に、というかこの星全体に〈焼き〉のにおいを感じつつあったわたしは
「いいや、あれはなにかしら焼かれた、焼きなんちゃらだね」と言った。
「じゃあ焼きカッパだな」
と、卵焼きセグウェイはじわじわと速度を上げ、ウーボー、未確認砂浜物体(UBO)まで向かい始めた。
砂浜の横を走る一本道では、チクワをくわえたチワワがチワワを背負ったチクワに、最近日本にやってきたマイケルみたいに話しかけていた。
コンニチワ。
ベンチではテントウムシみたいなヘルメットをかぶっていた少年が、1リットルのペットボトルを抱えながらスズメの涙を採集していた。
目的地に着くとセグウェイは言った。
「おい、ただのパンじゃねえかよ」
「パン?」
「ああ、パン。サンドウイッチだ」
わたしは言った。
「おい卵焼き、砂は英語でなんて言う?」
「なんだと。じゃあそうゆうことか」
「ああそうゆうことだ」
ペットボトルをベンチに置き、チクワとチワワを抱えたスズメテントウムシ小坊主はこう叫んだ。
「砂砂砂!砂三度!砂サンド砂!!砂サンド砂で砂サンド砂!!!」
目にはたっぷりの笑い涙が光っていた。
マイセグウェイは踊るように回転していた。わたしは拳を突き上げ浜風に声をのせるように、こう叫んだ。
「砂サンド砂で砂サンド砂で砂サンド砂!!!」
遊泳途中、偶然、湖から砂のカーニバルを三度見することになったカッパはとりあえず背負っていたきゅうりを、むしゃりと一口かじりこうつぶやいた。
「すなをかけたせかいもすてきだな」
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